- ゆりこ
- ある秋の日、恋人に浮気され、あっさり捨てられてしまった。
恋人のウソが見抜けなかったことも、まだ彼を愛していることも、
浮気相手が私の友達だったことも、何もかもがつらい。
私の心は腐ったトマトのように潰れてしまい、もう、何日も眠れていない。
誰でもいいから、助けて・・・。
- 電車の音。
- 老人
- お隣、あいてますかな。
- ゆりこ
- どうぞ。
となりに座ってきた品のいい、白髪の老人・・・。
この人なら、どうしようもない私の魂を救ってくれるのではないか。
気が付いたら、私は老人に話しかけていた。
あの、私・・・辛くて・・・。恋人に浮気されて、捨てられてしまって・・・。
もうどうしたらいいのか・・・(泣く)。
- 老人
- お嬢さん・・・。
- ゆりこ
- うう・・・。でもまだ彼を愛しているんです。彼の家の合鍵も、まだ返せなくて・・・。
- 老人
- なるほど・・・。それは、さぞつらいでしょうな・・・。今から彼の家へお行きなさい。
そして、犬のフンをまきちらしなさい。
- ゆりこ
- えっ?
- 老人
- 仕返し仕返し。うっふっふ・・・。
- ゆりこ
- そんな、そんなことして、いいんでしょうか・・・。
- 老人
- やってごらんなさい。わしもついていってあげましょう。
- ゆりこ
- この老人の言葉に私は魔法にかかったようになってしまい、一緒に元カレの家に忍び込んだ・・・。
- 老人
- ほほう。結構なおうちですな。おや、これはロレックス。質屋だなあ・・・。
- ゆりこ
- えっ。
- 老人
- おっ、これは高そうなパソコン。日本橋に持っていきましょう。
- ゆりこ
- えっ?
- 老人
- これを売った金で焼き肉でも食いましょうな。
- ゆりこ
- そ、そんな・・・。
- 老人
- おや、スマホを忘れて行ってる。チャンスだ。
- ゆりこ
- チャンス?
- 老人
- 浮気相手とのラインを、ネットに流してやりましょうな。
- ゆりこ
- ウソ!
- 老人
- 何がウソなものですか。
スマホを見てこのくらい思いつかないようでは、この先の人生、思いやられますな。
- ゆりこ
- 復讐が過激すぎる!!
- 老人
- 「ありさ」。これが浮気相手でしょうな。おや、別に「しのぶ」なる女も。
これは作戦変更だ。お互いのラブラブラインをスクリーンショットにおさめて、
- シャッター音が何回かする。
- ゆりこ
- スマホの操作が早すぎる!老人の速さじゃない!
- 老人
- お互いに送る、と。これで修羅場が発生しますな。おや、もう既読が付いた。
- ゆりこ
- あああ。
- 老人
- おや、彼はツイッターをやっていますな。ちょうどいい。
彼のアカウントでこの浮気ラインを流してやりましょう。
フォロワーが700人。700人が彼の浮気証拠を見るわけだ。うふふふ。
- ゆりこ
- もうやめて!!私、気が付きました。
浮気された私にも、何か原因があったのかもしれない。もう、彼を恨むのはやめにします。
それに気が付けたのは、おじいさんのおかげです。ありがとう。
- 老人
- もうツイッターで流してもたわ。
- ゆりこ
- いやああ!!!わ、私知らない!知らない!!(逃げ出す)
- 老人
- 待ちなさい!まだ犬のフンが残って・・・。うわあ、手についた!!
- ゆりこ
- ありがとう、おじいさん!私、彼の事、忘れられそうです!!
- 終わり。