窓、開けていただけませんか?
雨、上がったみたいですね。あ、眩しくないですか? カーテン、
いえ、大丈夫・・ああ、いい風。
朝晩は寒いくらいですよ。ついこないだまで夏だったのに。
目を覚ますたびにね。今日は何年の何月何日だったかしらって、考えるんですよ。
あれ?今日って何曜日だっけ?、とか。僕もしょっちゅうですよ。
お仕事、お忙しいから。
いやいや。ご気分は? いかがですか?
おかげさまで、今朝はずいぶん。
そうですか。じゃあ準備できたらいつもの点滴を、
シジュウカラを刺さないようにね。
え・・あ、ですね。シジュウカラに針、刺さらないように気をつけます。
びっくりされたでしょ?私の身体。
・・それはその・・転移が進んでしまっていますので。でも、
じゃなくて。
え、
私の、動物たち。
いや、ええ、まあ・・
プールにも銭湯にも行けなかったの。若い頃からずっと、こうだったから。
全身、ですもんね。
左腕にシジュウカラとツグミ。お腹にロシアンブルー。肩にネザーランドドワーフ、
ネザー・・?
うさぎ。
ああ、はい。
背中にフラミンゴとアミメキリン。それから、
たくさん、ですね。
そうね。たくさん・・まるで動物園。
ハハ・・すいません。
いいんですよ。子供がね、小さい頃はよくお風呂で遊んだんです。『象さん、どこかなー』
このまえお見舞いに来られた息子さん。
ええ。つい昨日の事みたい。こうやってずっと同じ天井を見てると昨日も一昨日も溶けてつながっていくみたい。
天気も良くなりましたし、車椅子で散歩でも。
この子たちがやって来てから、もう何十年たったのかしら。
息子さん、じゃなくて、えっと、
若いころにね、付き合っていた男の人が彫ってくれたの。
これを、全部、ですか?
駆け出しの彫り師の、練習台。でもどうせならって私の好きなものを。
身体中に、動物たち。
すぐに別れてしまったんですけどね。それから就職して結婚して子供を産んで育てて・・あっというま。
あっというまですか。
身体に動物園がある以外は、普通の女の、普通の人生。
ご近所の方もまさか目の前に動物園があるとは思わなかったでしょうね。
案外、あるかもしれませんよ。先生の周りにも。ひっそりと。こっそりと。
ひっそりと、こっそりと・・かもしれません。
窓、もう少し開けていただけます? ああ、本当にいい天気。
ええ。空が高くて。雲もなくて。
・・私、決めました。
え?
きっとこんな日だわ。動物園を開放するのに、ふさわしいのは。
開放? 動物園って・・タトゥーを?
ずっと一緒にいてくれて。楽しい日も悲しい日も一緒に。でももう、これ以上、ここから先は、私ひとりで行かなきゃ
動物たちの鳴き声が病室にこだまする。
ええっ!? なにこれ? なんだこれ?
さようなら。私の、秘密の、動物園。
・・疲れてるのかな、俺・・
先生、点滴、いいんですか。
え、ああ、ですね・・そんな・・タトゥー・・消えてる・・
さあ始めましょう。新しい一日を。
おしまい