- ―手術道具を準備する音―
- 男
- ううん・・
- 女
- あれ?うそ、やだ、起きちゃったの?
- 男
- 俺・・なんで・・ここ・・どこ?
- 女
- やだもー、なんで効かないの?あの薬高かったのにー。
- 男
- 優子?・・何してんの?っていうかさ・・俺、なんで縛られてるの?
- 女
- ヒロ君、驚かないでね。今から私ね、ヒロ君手術するの。
- 男
- は?何?
- 女
- 私ね、最近ね、ヒロ君の様子おかしいなーって思ってたの。おうちでご飯食べるの減ったし、お泊りすることも増えたでしょ?
- 男
- いや、それは・・
- 女
- あんまり私のこともかまってくれなくなったじゃん?
- 男
- あの・・ちょっと待ってよ。
- 女
- あんなに私のこと好きだって言ってくれてたのに、急に冷たくなるなんておかしいよね?私、ヒロ君のためならどんなことだってしたよ?ヒロ君の言うこと何だって聞いたのに。おかしいよ、絶対おかしい。ヒロ君自分でそう思わない?
- 男
- 冷たくされたって感じたんなら謝るよ。だから、まずこの縄ほどいてくれない?
- 女
- 私、調べたの。ヒロ君がおかしくなった原因。
- 男
- え・・。
- 女
- そしたらね、分かったの。すごいね、今はネットでなんでも分かるんだね。
- 男
- いや・・違うんだ・・彼女は、その・・。
- 女
- ヒロ君。落ち着いて聞いてね?ヒロ君がおかしくなった原因はね・・虫なの。
- 男
- ・・・虫?
- 女
- 正確にはね、アフリカオオツメバエっていう蠅のせいなの。この蠅はね、人間に卵を産み付けるの。ほらヒロ君この間腕がすごく痒いって言ってたじゃん。
- 男
- 何?アフリカ?
- 女
- アフリカオオツメバエが産み付けた小さい卵は体内を巡って腎臓のネフロンで引っかかって止まるの。卵はそこで孵化して、アフリカオオツメバエの幼虫はそのまま腎臓内部に寄生するの。でね、幼虫が成長する際に排せつ物をだすでしょ?その排せつ物に特殊な分泌液が混ざっていて、それが寄生された人間の脳に作用して異常な行動を引き起こすんだって。
- 男
- お前、なんの話してんだよ・・
- 女
- ヒロ君が最近冷たくなったのはね、この蠅のせいなの。この蠅に寄生されてるからヒロ君おかしくなっちゃったの。絶対そうなの。
- 男
- ちょっと待って、ちゃんと話そうよ。ね、まずこの縄ほどいてさ・・・。
- 女
- 駄目だよ!絶対ダメ!・・よく聞いてねヒロ君。アフリカオオツメバエの幼虫はね、寄生した人間の腎臓内部を食い荒らして成長するの。そして死に至らしめた後で、お腹を食い破って出てくる。
- 男
- ・・・・
- 女
- そんなのがヒロ君の中にいるなんて・・・。ヒロ君が死んじゃうなんて耐えられないの。だから私が手術して、その虫をお腹から出してあげるの。
- ―女は再び手術道具を用意し始める―
- 男
- バカな事言ってんじゃねーよ!おい!早くほどけよ!
- 女
- ・・・
- 男
- おい・・ちょっと話聞いてくれよ、な?そんな・・アフリカの蠅がここにいるわけないだろ?優子のこと傷つけたんなら謝るから、俺、心入れ替えるからさ、そんな分けわかんないこといってないでさ・・・そうだ、今度遊園地行こうよ!前から行きたいって言って・・・(ガムテープで口をふさがれる)
- 女
- 手術痛いと思うから、口ふさぐね。
- 男
- んー!んー!
- 女
- ヒロ君は悪くないの。全部、虫が悪いのよ・・・。
- 男
- んー!
- 手術の音
- 女
- あれ?腎臓ってどれだっけ?
- ―おわり―