- 桃子
- (モノローグ)私には兄が一人いる。
なんの仕事をやってもすぐにクビになって、彼女もいない、心配な兄が・・・。
- 兄
- 桃子。久しぶりジャン。
- 桃子
- お兄ちゃん。何、舞台見に来るの、久しぶりじゃん。
- 兄
- たまにはな、妹の女優姿を見とかないとな。
- 桃子
- どうだった、あたしのクレオパトラ。
- 兄
- よかったよ、蛇を丸飲みするシーンが特によかったよ。
- 桃子
- 実はね、この作品を三年後にブロードウェーに持ってくって話があるんだよね。
- 兄
- へえ!
- 桃子
- でも飛行機代が自分もちなんだよね。だから貯めなきゃね。
- 兄
- 貯金はあるのか。
- 桃子
- まあ、10万くらいは。
- 兄
- きたきた。桃子、あのな、その金を増やすいい方法があるんだー。
- 桃子
- 何よ。
- 兄
- あのな、その10万をとある会社に預けるんだよ。
いやもう、ぜんっぜん怪しくない会社なんだ。
そしたらな、一年後、千円増えて返ってくるんだよー。
- 桃子
- はあ?
- 兄
- 実は兄ちゃんももう預けてるんだ。40万。一年後には4千円増えて返ってくるんだよ。もう兄ちゃん、今からその金をどうやって使うか、楽しみでしょうがないよ。
- 桃子
- お兄ちゃん、騙されてるよ!!
- 兄
- 騙されてないぞー?
- 桃子
- そのお金、絶対返ってこないよ?
- 兄
- 来るんだ。それにな、最悪、お金が返ってこなくても、物で返してくれるらしい。
- 桃子
- 物で?
- 兄
- ああ。預けた金額分の生卵で返してくれるらしい。
- 桃子
- 生卵?
- 兄
- そうなんだ。その会社は宮崎の方で養鶏もやってるらしいんだな。
- 桃子
- 40万円分の生卵って、いくつになるのよ!!
- 兄
- 部屋に入りきらないだろうな。
- 桃子
- お兄ちゃん、騙されてるよ!
- 兄
- 何を言うのかな、お前は。兄ちゃんのこの澄んだ目を見なさい。
- 桃子
- 騙されてる人の目は澄んでるもんよ!!
- 兄
- ああ。お前にはドッペラークマラーが憑りついている。
- 桃子
- 何それ。
- 兄
- 悪魔のことだよ。これもその会社の人が教えてくれたんだ。これを見なさい。
- 桃子
- 何その指輪。
- 兄
- その会社で特別な人にだけ売ってくれるんだ。
ドッペラークマラーから身を守る指輪。300円。
- 桃子
- それは安いな!!ていうか、安すぎて効かなさそう…。
- 兄
- お札も買ったんだ。一枚10万円。
- 桃子
- それは高いのかよ!!
- 兄
- 御祈祷もしてくれる。一回100円。
- 桃子
- 縁日価格かよ!!
- 兄
- どうした、桃子。さっきから突っ込みのようなことばかりして。
そんな女の子はもてないぞ?じゃあ兄ちゃん今から、集会があるから!
- 桃子
- お兄ちゃん!
(モノローグ)しかし私はその後、クレオパトラの舞台やら稽古やらで、
兄のことはすっかり忘れてしまっていた。そして、一年後。
- 電話の音。
- 桃子
- もしもし。お兄ちゃん?
- 兄
- 桃子。どうしよう。今部屋に、生卵が8000個あるんだ。
- 桃子
- ええっ?
- 兄
- しかも全部有精卵らしくって。
- ヒヨコの鳴き声。
- 兄
- うわ!孵化した!
- 桃子
- どうするの!8000個だよ!
- 次々孵化するヒヨコたち。
- 兄
- あああ!
- 桃子
- えらいこっちゃ!!
- 兄
- でも、ヒヨコはかわいいね!
- 終わり。