- 男NA
- 時は近未来。国民の遺伝子情報はコンピューター管理され、
全ての恋愛は国家の支配下にあった。最適なタイミングで、最適な対象者との交際、
最終的には交配を指定される。全く、ふざけたプログラムだ。
- ドアを開ける音。男が女のいる部屋に入る。
- 男
- あ、どうも。
- 女
- あ、はじめまして。
- 男
- いやいやいやいや。
- 女
- なんか、ね。
- 男
- 緊張しますよね。
- 女
- ええ。不思議な感じです。
- 男
- 相性ばっちり。
- 女
- らしいですけどね。
- 男
- あの、最初に言っておきますけど、僕はこのプログラムには反対なんです。
- 女
- ああ。
- 男
- あ、いや、別にあなたの顔を見て、そう思ったわけじゃなくて。
- 女
- あ、ええ。全然。
- 男
- むしろ、アレですけど。
- 女
- 私も、本当は嫌なんです。こんなふうに、自分の恋愛の相手が勝手に決められてるのって。
そんなの、自分で決めたいじゃないですか。
- 男
- ええ、そりゃそうですよ。
- 女
- いくら遺伝子的に相性ばっちりだからって。
- 男
- ええ。
- 女
- あ、いや、別に、あなたの顔が嫌いとかそういうことではないんですけど。
- 男
- はい。
- 女
- むしろ、アレですけど。
- 男
- ああ……。
- 女
- ええ……。
- 男
- 大体、遺伝子なんかで、決められてたまるかってんですよ。
- 女
- あたしも反対なんです。今のこのシステム。
- 男
- 我々、初対面ですよ。お互いのことを何も知らない。
- 女
- ええ。もしかしたら、全然価値観とか合わないかも知れませんもんね。
- 男
- そうですよ。パクチー好きですか?
- 女
- あ、苦手です。
- 男
- ほら。僕、パクチー大好きなんです。結婚するなら、パクチー好きじゃないと。
- 女
- あの、逃げません?
- 男
- え?
- 女
- あたし、実はフリーラブ同盟なんです。
- 男
- ええ?
- 女
- このプログラムの反逆同盟。拳銃も持ってます。
- 女、拳銃を机に置く。
- 男
- いいですね。逃げましょうか。
- 女
- お互い、もっと相性のいい、運命の人がいるはずですよ。
- 男
- ええ。
- 女
- 探しに行きましょう。自分の力で。
- 男
- よし!
- 女
- じゃあ、321で扉を蹴破るから、あなたは伏せて右側にいる警備員の足を撃って。
- 男
- オーケー。
- 女
- あとは、その場の呼吸で。
- 男
- ラジャー。
- 女
- 行くわよ。3、2、1!
- 女、扉を蹴破る。男、すかさず発砲。
- 女
- うまい!
- 男
- こっちだ!
- 女
- あ、危ない!
- 男が罠にかかりかけたのを女が助ける。
- 男
- ありがとう。
- 女
- 礼なんか要らないわ。
- 女と男、脱走を続ける。発砲音や、女「よっ」男「はっ」などの掛け声を出しながら、
ナイスなコンビネーションで脱走を続ける。
- 男NA
- 時は近未来。
これから僕はこの女と一緒に、自由恋愛を掲げて国家へ立ち向かっていくことになる。
ただ、どうもさっきからコイツとは息が合う。パクチー嫌いのくせに、
顔だって可愛いし、銃を持つ姿は最高だ。……僕はいったい、何と闘っているんだ?
- END!