- 産婦人科の待合室
「372番の方、診察室へお入り下さい。」などのアナウンスが聞こえる。
- ひとみ
- ふう。待ち時間長いなあ。有名な産婦人科だもん。しょうがないか。
- タバタ
- ねえ、長いわよねえ。
- ひとみ
- あっ、ええ。
- タバタ
- やんなっちゃう。あなた、何カ月?
- ひとみ
- 四カ月です。
- タバタ
- (自慢げ)あたし、五カ月。
- ひとみ
- そうですか。
- タバタ
- 先輩って呼んだらいいのよ。
- ひとみ
- ・・・あはは。
- タバタ
- 何が「あはは」なの?
- ひとみ
- すいません。
- タバタ
- いいの。で?お腹の赤子は、一人?
- ひとみ
- はい。
- タバタ
- こっちは、双子。
- ひとみ
- ・・・そうですか。
- タバタ
- 双子って、得じゃない?だって、普通なら最短でも二年かかるとこよ、
二人産もうと思ったら。
- ひとみ
- はあ。
- タバタ
- うらやましいでしょ?さぞねえ。
- アナウンス
- 375番の方、診察室へお入りください。
- タバタ
- (375番が)あたし。あ、あなたお名前は?
- ひとみ
- 佐伯です。
- タバタ
- 覚えた。じゃ佐伯っち、お先!!
- ひとみ
- ・・・何なの?
- (心の声)それから五か月後の健診の日。
- ひとみ
- げっ、またあの人じゃん!
- タバタ
- (誰かに)あなた、何カ月?二ヶ月??とんだひよっこね!
- ひとみ
- うわあ。見つからないようにしなくちゃ・・・。
- タバタ
- こんにちは。
- ひとみ
- こんにちは・・・。
- タバタ
- あなた、お名前は?
- ひとみ
- えっ?・・・佐伯です。
- タバタ
- 覚えた。
- ひとみ
- ウソ。忘れてたじゃん。
- タバタ
- 何か?
- ひとみ
- いえ、なんでも。
- タバタ
- あなた、何カ月?
- ひとみ
- 九カ月です。
- タバタ
- あたし、十カ月。
- ひとみ
- はい・・・。
- タバタ
- ご趣味は?
- ひとみ
- えっ?映画鑑賞とか・・・。
- タバタ
- あたし、歌舞伎鑑賞。英検は、とった?
- ひとみ
- 昔、三級を・・・。
- タバタ
- ほほ。あたし、準二級。海外旅行で行ったことのある国は?
- ひとみ
- 台湾と、韓国にエステに・・・。
- タバタ
- エステ!!エステ!!せっかくの海外、もっとスペシャルな体験をしに行くべきよ。
あたしはね、カナダと、ノルウェーとフィンランド。
すべてはオーロラを見るために。ほほほ、上!あたしの方がすべてにおいて上!!
- ひとみ
- この~!! 初めての子供ですか?
- タバタ
- ええ。
- ひとみ
- 私、三人目です。
- タバタ
- ・・・えっ?
- ひとみ
- 上の子は6歳、下が3歳。
- タバタ
- なんですって・・・・?!
- ひとみ
- お産、もうすぐですね。先輩。
- タバタ
- ・・・はい。
- ひとみ
- 大変ですよ、先輩。
- タバタ
- そ、そうですよね・・・。
- ひとみ
- まああたしは三人目なんでね、どんなものか知ってますけど。
先輩は初めてでしょうからね。
- タバタ
- あっ。お腹痛い!!陣痛・・・!
- ひとみ
- がんばってくださいね、先輩。
- タバタ
- ああっ!!ヒッ、ヒッ、フー!
- 終わり。