- 女
- ラジオドラマ「風ふく先生、さよなら」
- 曲と同時に入る。
曲「落下する 6月」残響ピクニック
- 女
- 風ふく先生の別れの日。私たち一同集まって、ひろいひろい校庭で、先生を見送るのです。
空には星。その横にお月さま。見渡すここには、大人はだあれもおりません。
みんなみんな、風ふく先生の子供達です。
- 突風
- 男
- (おおきくたくましく)それじゃあ諸君、僕行くよ。君たちは追いかけてきちゃならないよ。
- 女
- 私もいきます!
- 男
- そりゃだめだ。ほら、あすこに行くんだ。見えるだろう、
- 女
- そら。
- 男
- ここからそんなに遠くない。君たち何にも怖がることはない。
- 女
- 先生。いやです。それでもいやです。
- 男
- 君ね、そんな泣きべそ、もったいない。
- 女
- いやです。
- 男
- にらみを効かせたその目が好きだ。若いってのは、いいもんだ。
若いってのは下手くそで、若いってのは、とびきり強い。いいじゃないか。
(周りを見渡し)いいじゃないか。
- 女
- 先生だってまだ若い!
- 突風
風が先生をすこしずつ舞い上げていこうとしている。
- 男
- がっはっはっは。そうだ、なんと比べる。俺なんてまだまだ若い。
みろ、この腕を。幾本もの静脈が浮き立ち波打ち、荒ぶっている。
みろよ、この目を。赤い大蛇が暴れてる。心臓はこんなにも硬く、こんなにも強い。
俺もまだ若い。しかし、さらばだ。さよならだ。
(小さく優しく)理由なくとも、どうにもならぬ。(大きく)風がふくぞう。
- 突風
- 女
- せんせーーーい!いつか帰ってきてください。
- 男
- がっはっはっは。いんや戻らぬ!
君たちいつまでそこにいる。旅たて、旅たて。風がふくぞう。
- 突風
- 女
- せんせーい。
- 男
- 空中ブランコ、次から次へ。手綱を揺らして、次から次へ。
五本指から、するりとこぼれ、ぐらりと空へ。星ふる夜へ。
空中ブランコ、次から次へ。手綱をゆらして、次から次へ。
五本指からするりとこぼれ、ぐらりと空へ。星降る夜へ。
おおおおい。さようなら、さようなら。
- 曲遠のく。
先生がいなくなった校庭と、空の星が残っている。
- 女
- ・・・さよなら。先生。
- おわり。