- タイトルコール
- 女
- ちいさな星崎先輩。
- 物語の始まり。とてもちいさなこそこそ声
- 男
- ねえ。君、僕のことを見てよ。
- 女
- ・・・
- 男
- ねえ、君ってば、こっちを見てよ。僕だよ、君に話しかけてるのは。
- 女
- ・・・あっ。
- 男
- そうだよ。僕さ。
- 女
- ああ・・・
- 男
- うん、小さいよね。そんな顔しなくっても充分わかってる。
- 女
- あああ・・・!星崎先輩!!
- 男
- やあ。あっ。そっと。そっと頼むよ。そうだよ、僕ってつまみたくなるよね。
あ、首はやめて。ほらここ、背中につまみがあるでしょう。
そこがいいよ。そこは痛くない。
- 女
- おお・・!(まだ驚いてる)
- 男
- ふう。君の手に乗った僕。手乗り星崎。かわいいな。(自嘲気味に)
- 女
- 先輩、こないだよりもっと小さくなってる・・・!
- 男
- うん。実はそうなんだ。一回りかふた回りくらい小さくなったよね。
- 女
- いったいどうして・・・
- 男
- それは僕にもわからない。困ったもんさ。へへ。
- 女
- へへって。こないだはヌイグルミサイズだったのに。
- 男
- そのときまだ僕大きかった。
- 女
- どうするんですか!
- 男
- うん。どうしようか。
- 女
- あ、先輩のお母さまは?お母さまはなんて?
- 男
- 昨日マッチ箱買ってきてた。僕のベットにって。
- 女
- へええ・・・
- 男
- あの人は鉄の女さ。
- 女
- どうしたら、どうしたら元にもどるんだろう・・・
- 男
- 困ってる君を見てると僕妙に落ち着くな。
- 女
- 真剣に考えてください!
- 男
- うん。いや、もう戻らないだろう。僕は日に日に小さくなってゆく。
来週はもうゴマ粒ぐらい。やがて原子レベルにいきつきミクロの旅をする。
- 女
- そんな!
- 男
- これが現実さ。・・・それでね、僕は、もう誤魔化すのは止すことにしたんだよ。
・・・僕ね、君のことが好きなんだ。
- 女
- えっ
- 男
- 好きさ。ずっと。出会ったときから好きなんだ。キスしたい。
- 女
- あ、あの・・・
- 男
- キスしていいかい。
やがて、原子レベルに行き着く僕は、君という物体をとらえられなくなる。
今の僕が、君の唇を感じられる最後のサイズさ。キスしていいかい。
- 女
- はい、いいです。先輩、星崎先輩。私もずっと好きでした!(泣きべそ)
- 男
- うん、知ってたよ。バカなのは僕なんだ・・・。じゃあ、目を、閉じて。
- キスをする。
- 女
- どうでしたか。
- 男
- 太陽みたいだった。
- 女
- 太陽???
- 男
- うん。君のキスは大きくて、太陽みたいだった。ありがとう。さよなら。さよなら。
- 女
- ・・・ちいさな星崎先輩は、その日を界に見えなくなりました。
いなくなったわけではありません。ただ、見えなくなっただけ。
もしかしたら、今も、私の心臓の真ん中あたりで
原子レベルの旅をしているのかもしれません。
ちいさなちいさな星崎先輩。今も好きです。先輩。