- 寝室。女の酷いいびきが響き渡る。
男、眠れずに起き上って、
- 男
- あのー。かほちゃん。……かほちゃん、ちょっと。
- 女
- (起きて)ん、ふぇえ?
- 男
- かほちゃん、あのー、非常に言いづらいことなんだけど……。
- 女
- (また眠り、いびきをかく。)
- 男
- ……かほちゃん。
- 女
- (激しく、いびきをかく。)
- 男
- かほちゃん。 起きて! かほちゃん!
- 女
- ふぇ、ふぇえ? なにぃ?
- 男
- かほちゃん、あのね、すごいんだ。
- 女
- どうしたのぉ。
- 男
- 僕たちが、今日からこうやって一緒に生活するにあたって、
わりと深刻な問題が発生してしまっているんだ。
- 女
- そうなのぉ。
- 男
- そうなんだ。かほちゃんは、それがどんなことかわかるかな。
- 女
- えー……髪の毛が……。
- 男
- え? 髪の毛……? なんだい、髪の毛って。僕の髪の毛が薄くなりつつあるって話かい。
- 女
- (また眠り、いびきをかく。)
- 男
- かほちゃん、かほちゃん!
- 女
- ふぇぇえ。
- 男
- かほちゃん、あのね、確かに僕の髪が薄くなりつつあることも重大な問題かもしれない。だけど、それは毎日の生活には関係ないと思うんだ。
僕が問題視しているのは、日々の暮らしの中に潜んでいるとある事象なんだ。
- 女
- わかんなぁい。
- 男
- かほちゃんは、僕はすごく可愛いと思う。
- 女
- えぇ? んふぅ、ありがとぉ。
- 男
- だけど、その可愛らしさの中に、大変なものが隠されているんだ。
- 女
- なに、もうやだエッチぃ。
- 男
- エッチな話はしていないんだ。
エッチな話をするとき、僕はこんなに真面目な顔をしないんだ。
- 女
- (眠りそうに)んー…。
- 男
- かほちゃんが思っているより、事態は深刻なんだ。
- 女
- (眠り、激しくいびきをかく)
- 男
- かほちゃん、今日は初日なんだ。
僕はこれからもかほちゃんと一緒に長く暮らしていきたいんだ。
そのためには、お互いがお互いを思いやることが大切だと思うんだ。
君が望むのなら、明日にでもカツラを買おうと思う。
- 女
- んごっ(無呼吸)
- 男
- …………かほちゃん?
- 女
- (激しくいびきをかく)
- 男
- かほちゃん! かほちゃん!
- 女
- (起きて)もう! なんなのさっきからうるさいなあ!
- 男
- かほちゃんのいびきがうるさいんだ!
- 間。
- 女
- ほんと?
- 男
- ほんと?
- 女
- ごめん。
- 男
- いや。
- 女
- 恥ずかしい……。
- 男
- こっちこそ…、はっきり言ってごめん。……かほちゃん?
- 間。
- 女
- (いびきをかく)
- 男
- いつまでも一緒にいたいからこそ、てーいっ!(と、女を叩く)
- 女
- いったー! なによもうー!
- 男
- 今日と同じ明日をいつまでも乗り越える覚悟は僕には無いんだ!
- 女
- 何いってんの、このツルツル頭!
- そしていつまでも夜は続く。
- END