- オルゴール・ミュージック。スズメの声。
- 男の子
- (あくび)朝が来たか。ママのお腹の中からは見えないが、いい天気なんだろうなあ。
- ママ
- 行ってらっしゃい、洋(よう)ちゃん。気を付けてね。
- パパ
- うん。行ってきますだおかだ!(シャレ)
- ママ
- もう。行ってらっしゃーい。
- 男の子
- これが俺のパパとママ。四か月前に俺を妊娠したことがわかって、
二人は今、きっと人生で一番幸せな時期なんだろうなあ。
- ママ
- (お腹に語り掛けている)ねー、赤ちゃん。元気?
- 男の子
- 元気だよ、ママ。
- ママ
- (お腹に語り掛けている。ほがらか。)ママさー、最近パパに飽きてきたんだよねー。
- 男の子
- えっ?
- ママ
- (ほがらかに)ギャグもおもしろくないし・・・。つまらない男だよ、あんたのパパは。
- 男の子
- おい、やめてくれよ。
- ママ
- (ほがらかに)あんたもおもしろくない子に育つのかなー。
- 男の子
- なんてこと言うんだ、ママ。
- 電話の着信音。
- ママ
- はい。ああ、お義母さん。ええ、つわりもおさまって。・・・胎教?はあ。
クラシックとか、最近は絵本を読み聞かせるのもいいんですか。へえ。やってみます。はーい。ではまたー。(電話を切って)胎教ねえ。
- 男の子
- いいねえ。なんか音楽聞かせてくれよ、ママ!
- ママ
- クラシックのCDとかないし…。きっとあれだよね、自分の好きな音楽とかでもいいよね。
- 男の子
- いいよ、ママ!
- デスメタルがかかってくる。
- 男の子
- ママ・・・。こんなのが好きなのかい?
- ママ
- (シャウト)イェーイ!!フゥー!!
- 男の子
- ・・・俺をどんな子に育てたいんだ、ママ。
- 音楽、小さくなる。
- ママ
- えーっと、絵本の読み聞かせ?これでいいや。
「血まみれの信二の姿をみて、真由美は絶句した。
いったい自分が家をあけた五分の間に、何があったというのか。」
- 男の子
- なんでそんな小説を読むんだ、ママ!!
- 先ほどのデスメタルがまたかかってくる。
電話がかかってくる。
- ママ
- はい。あ、秋穂?久しぶりー。うん、順調。そっちも順調?・・・
なんか最近、飽きてきたんだよね、妊娠に。もうさっさと生まれればいいのに。
- 男の子
- 無茶言うな。まだ六カ月だぜ?
- ママ
- ・・・懐かしいね、あの頃。よくバイク盗んだよねー。
- 男の子
- ママ、そんなことを?
- ママ
- でももう、そんなことできないね。
- お腹を叩く音。
- ママ
- この子がいるから。
- 男の子
- (感動)ママ・・・。へへ。
- ピンポンの音。
- ママ
- はいはい。(ドアを開ける音)パパ、おかえりなさい。
- パパ
- ただいマイケルジョーダン!
- 男の子
- 俺も・・・こうなるのか?
- 終わり。