- より子
- 信じられないことだが、ある朝目が覚めると、右手に人面疽ができていた。
そしてその人面疽が、私に話しかけてきたのです・・・。
- 男の声
- よう・・・。
- より子
- きゃー!!何これー!!!
- 男の声
- 俺はお前を結婚させるためにやってきた・・・。
- より子
- えっ?・・・余計なお世話よ。私まだ25だし、仕事がチョー楽しいの!
結婚とか、早い早い!
- 男の声
- ばかやろう!!
- 頬をたたく音。
- より子
- いたい!右手が勝手に私をぶった!!
- 男の声
- いいか。そうやって仕事にまい進して30歳を迎えるだろ?
そしてそろそろ結婚するかと思って婚活を始めるとするな?ところが・・・、
いないんだよ。いい男はもう、ちゃっかりした女にとられてるんだ。
いつとられたか。今だよ。いい男は25くらいで、あいつらものになっているんだ!!お前は仕事はできるかもしれないが、
あいつらだって、別の意味で仕事ができるぜ!!
- より子
- そんなこと言われたって。とにかく今は結婚なんかしません!!
(モノローグ)ところが次の朝・・・。恐ろしいことが起きていたのです・・・。
- 朝の音(すずめとか)。
- より子
- (あくび)・・・何これ?婚姻届?100枚くらいある!!
- 男の声
- お前が寝てる間に市役所に行ってもらってきた。そして署名した。
そして、お前の知り合いの男全員に送っておいた。
- より子
- なんてことすんのよ!!
- 男の声
- 誰か一人でも自分の分を書いて提出してくれればいいんだが・・・。
- より子
- ああっ!めっちゃメール来てる!
「どうしたんですか松田さん。」「これは一体どういうことですか。」
- 電話の着信音。
- より子
- はい。・・・違うんです、違うんです。新手の冗談というか・・・。気にしないで!
- 男の声
- (ちょっと高い声で)私と結婚してください!
- より子
- 冗談です!(電話切る)はー、はー(息が荒い)。
- 「YOU GATTA MALE」の声。
- より子
- 「当方、38歳。営業職です。一度ごはんでも・・・」何これ。
- 男の声
- 本気の婚活サイト・K-NETにも登録しておいた。
- より子
- なんてことすんのよ!!
- 男の声
- 「綾瀬はるかに似てるね」とよく言われます、と注釈をつけてな!
- より子
- もう怒った!!あんた何なの?
- 男の声
- ・・・俺は・・・、十年後のお前だ。
- より子
- えっ?
- 男の声
- お前にどうしても言いたいことがあって、未来から人面疽という形でやってきた。
- より子
- 未来から・・・。
- 切ない音楽。
- 男の声
- ほんとにね、いい出会いが減っていくの・・・。ていうか聞いてくれる?
こないだデートした男なんてねえ。初デートなのに280円居酒屋よ!
「この店、コスパいいから」とか言ってさあ。デートで「コスパ」とか言うなっつのー。こっちが冷めるから逆にコスパ悪いっつのー。ハッ!!
- より子
- えーっ。そんな十年後、やだー!!
- 男の声
- だろ?だから、今しかないんだ。今がんばらなきゃ!!
- より子
- わかった。私、がんばる!!
- 電話の音。
- より子
- はい。・・・東大阪警察?・・・えっ、待ってください!!
- 男の声
- どうした。
- より子
- あんたが送った婚姻届、二人が役所に提出したらしいわ!!重婚は犯罪よ?!
- パトカーの音。
- より子
- うそー!
- 男の声
- やっぱり結婚は慎重にしなきゃだな!!
- 終わり。