- 川のせせらぎと、小鳥のさえずりが聞こえてくる中、
ザッザッ…と足を引きずるかのような音が近づいてくる。
- 男
- いてて…いてて…ああ、もう!
- 男、履いていたサンダルを乱暴に脱ぎ捨て、拾い上げる。
- 男
- もういい…。
- 裸足でペタペタと歩き出す。
- 男
- イテッ…誰だよ、こんなとこにビールの王冠捨ててる奴!?
わあー、結構いってるなあ…ティッシュもバンドエイドも何もねえ・・・。
なんなんだよ…。
- 男、ぼやきながら、河原沿いのベンチに座る。
川のせせらぎと小鳥のさえずり。
- 男
- 空はこんなに青いのに、川は綺麗なのに鳥は羽ばたいてるのに…なーに、オレは無職なんだろ…なーんでこんなことやってんだろ。
- ゆっくりと、コツコツした音が聞こえてくる。
- 女
- いたたっ…いったあ。
- 女、ベンチに荷物を置いて、自分も座る。
- 女
- (靴を脱いで)やっぱり…いたたた。
水ぶくれ出来ちゃってる…。
- 男
- あんまり触らないほうが…あ。
- 女
- え?
- 男
- ああ、ごめんなさい…思わず。
水ぶくれ…破裂しちゃいそうで…ははは。
- 女
- (つられて)ははは。
- 少し間。
女、かばんからゴソゴソとバンドエイドを取り出して、靴ずれに当てて貼る。
- 男
- ああ…。
- 女
- (視線に気づいて)え…あの…足の裏。
- 男
- いやあ、その…なんて言うか…ビールの王冠落ちてて、ちょっと。
- 女
- いや、なんでですか?
- 男
- えっ?
- 女
- だって…そのサンダル?
- 男
- え…あの、これ健康サンダル…いい天気だから…
つい、コンビニいってそのまんま散歩って思ったんだけど…なんか痛くて痛くて…
でも、どうしてももっと歩いて行きたいって意地になっちゃって、
裸足でいいかって思ったら…こんな有様で…ははは。
- 女
- 無茶ですね…。
- 男
- だよね…つい、何か達成しちゃったら何か変わっちゃうんじゃないかなって。
まあ、確かに変わったんだけど…そうじゃないっていうか。
- 女
- とりあえず、血が出てるし…ウェットティシュで拭いて下さい。
- 男
- ありがとう…いてて。
- 女
- しみますか?
- 男
- まあ…。
- 女
- アルコール除菌ですから。
- 男
- なるほど。
- 男、バンドエイドを貼ろうとするが、上手く貼れない。
- 男
- ああ…バンドエイドひっついちゃった。
- 女
- 待ってください…やります。
- 男
- え…ありがとう。
- 女
- とりあえず…裸足で歩くのはやめたほうが。
- 男
- そうだね、無茶だよね…バンドエイド貼ってもらっちゃって、ごめんね。
- 女
- いえ、良いお手本見せてもらったので。
- 男
- え?
- 女
- 私も…裸足になったほうがいいかなって。
痛いし…靴ずれしてるし…もうこれで歩くのやめちゃおうかなって。
でも…自分で決めて選んだ靴だから。
- 男
- うん…。
- 女
- 選んだのに…投げ出して、怪我したらしたで後悔するのって嫌だなって。
- 男
- ええっと…。
- 女
- ああ、すみません…こっちの話で、今から就活なんです。
- 男
- ああ…なるほど。
- 女
- じゃあ。
- 男
- 行ってらっしゃい。
- 男、女が少し痛そうにしているのを見送る。
- 男
- 闇雲に歩いたって、しょうがないよなあ。
観たい景色を観る…そのために何をするか…。
とりあえず…靴、だよな。
よし、行きますか。
- おわり