- 車内。
- 女
- ちょっとごめん。
- 男
- 何?忘れ物?
- ブレーキ音。
車のドアが開き女が出て行く。
- 男
- どこ行くの。
- すぐに戻ってくる女。
- 女
- ごめんごめん。
- 男
- また?
- 女
- クマ。
- 男
- みたらわかるし。
- 女
- かわいそうじゃん。
- 男
- そうかもしれないけどさ。
- 女
- 今日、これから雨っぽいし。
- 男
- 落とした子が探しに来るかもしれないよ?
- 女
- くるかもしれないけど絶対見つからないよ。
だって目印も何にもないとこに落ちてたよ。
落としたことにも気づいてないと思う。
- 男
- 怖くないの?
- 女
- 何が?
- 男
- 知らない人のぬいぐるみだよ。怖いっていうか気持ち悪くない?汚いっていうか。
- 女
- 潔癖性?
- 男
- 全然そんなんじゃないけど。
- 女
- 私、全然平気。
- 男
- 俺はあんまり平気じゃないな。
- 女
- え?そうなの?
- 男
- うん。
- 女
- でも私、結構レスキューしてきたよね。
- 男
- そうだよ。おかげで君の車の中、ぬいぐるみだらけだよ。
- 女
- かわいいじゃん。
- 男
- せめて持って帰りなよ。君のアパートに。
- 女
- 嫌なの?
- 男
- ……
- 女
- なんで今まで黙ってたの?
- 男
- 我慢してたんだよ。
- 女
- 気使うことなかったのに。
- 男
- うん。
- 女
- 窓開けていい?
- ウィンドウが下がる音。
- 男
- いいけどなんで?
- 女
- クマさんごめんね!!!
- 男
- 何やってんだよ!
- 女
- 嫌なんでしょ?
- 男
- 誰も窓から捨てろなんて言ってないじゃん。
- 女
- 外で拾ったんだよ?外に戻すのが道理じゃん。
- 男
- 何怒ってんだよ。
- 女
- 怒ってないよ。
- 男
- 怒ってんじゃん。めちゃくちゃすごい勢いでクマ、飛んで行ったじゃん。
- 女
- なんで君っていつも肝心なことを忘れちゃうの?この前の私の誕生日だって。
- 男
- またその話?もう許してよ。
- 女
- 許してるよ。許してるけど、どうして色んなことを忘れちゃうの?って言ってるの。
- 男
- 俺、誕生日以外になんか忘れた?てかなんで今?
- 女
- 自分だって拾われたんだよ。それを忘れてるって言ってんの。
- 男
- ……忘れてないし。
- 女
- 何?怖いの?自分が一番じゃなくなること?
- 男
- あのさ。
- 女
- うん。
- 男
- 君こそ色んなこと、忘れてない?
- 女
- え。
- 男
- どうして君は人形の俺と喋ってるの?
- 女
- え。
- 男
- あとさ。ずっと気になってたんだけど。
- 女
- え。
- 男
- このドライブ、いつまで続けるの?ねぇ。いつまで……?
俺たち、どこへ向かってるの……?
- 終わり