- 電話の音。
- 男
- もしもし。
- 蜘蛛
- もしもし。俺だけど。
- 男
- え………
- 蜘蛛
- お前、今、何時だと思ってんの。リハ、12時からって言ったじゃねぇか。
- 男
- リハ………
- 蜘蛛
- 寝てたろ。
- 男
- はい寝てました。
- 蜘蛛
- お前、寝坊をロックと思ってるだろ。
- 男
- え。
- 蜘蛛
- 寝坊はロックじゃないから。そこをあえて早起きする方がむしろロックだから。
- 男
- ………すいません。
- 蜘蛛
- 謝るな。謝るより謝らせろ。むしろ悪いのは寝坊を許せない俺の方だって説得しろ。
それぐらいの我の強さを見せてみろ。
- 男
- すいません。
- 蜘蛛
- 謝るな。
- 男
- 僕は悪くない。
- 蜘蛛
- 開き直ってんじゃねぇぞ。
- 男
- スパイダーさん。
- 蜘蛛
- 何。
- 男
- 僕、やっぱり向いてないです。
- 蜘蛛
- うん。
- 男
- ですよね。
- 蜘蛛
- 向いてる向いてないとか本当にどうでもいいから。やるかやらないかだから。
- 男
- スパイダーさん。
- 蜘蛛
- 何。
- 男
- 眠たいです。
- 蜘蛛
- 寝るな。リハにこい。
- 男
- ……無理です。僕、今、地球ですから。
- 蜘蛛
- 火星でやらなきゃ意味ないから。
- 男
- スパイダーさん。
- 蜘蛛
- 何。
- 男
- やっぱり地球人と火星人でバンドなんて無理なんですよ。
- 蜘蛛
- みんなが無理って思うことをやるんだよ。
- 男
- だったら火星へ行く交通費出してくださいよ。
- 蜘蛛
- そんな金はない。
- 男
- もう金ないですよ。片道2000円ですよ。
- 蜘蛛
- あるだろそれぐらい。
- 男
- ないですよ。ないから言ってるんです。週5で火星って。
せめて週2は地球にしてくださいよ。
- 蜘蛛
- だめだ。金がない。
- 男
- スパイダーさん。
- 蜘蛛
- 何。
- 男
- 金がないのはお互い様じゃないですか。
もしスパイダーさんが地球に来てくれるなら僕、もう寝坊、やめます。
- 蜘蛛
- 俺はお前と交通費の話をするために電話したんじゃない。
- 男
- いつもそうやってはぐらかす。小屋代の穴埋めだっていつも僕じゃないですか、
それからスパイダーさん、いつお金返してくれるんですか。
スパイダーさんがギター買うために貸しましたよね?
- 蜘蛛
- つきものだから。金のトラブルは。バンドに。人種間に。それが、障害だから。
そしてその障害を乗り越えて初めて生まれるものが、、、あるから。
必要なのはね。相手を許すこと。 俺はお前たち地球人をね。許すよ。
- 男
- スパイダーさん。
- 蜘蛛
- 何。
- 男
- 自分が今、話をすり替えてるの、気づいてます?
- 蜘蛛
- 知らん。
- 男
- それから聞き捨てならないですね。なんです許すって?
あなたたちが先に仕掛けたんですよ地球に。
- 蜘蛛
- いやそっちが先だ。
- 男
- いやそっちです。
- 蜘蛛
- いやそっちだ。
- 男
- こうやって一緒にバンドやってますけどね、忘れませんよあの日のことは。
- 蜘蛛
- 俺だって忘れてないよあの日のことは。
- 間
- 男
- とりあえず今日は無理です。
- 間
- 蜘蛛
- うん。
- 間
- 男
- また連絡します。
- 蜘蛛
- おい。
- 男
- はい。
- 蜘蛛
- 次のリハは地球で。
- 男
- ……はい。
- 終わり