- 泥だらけの<彼>がぐすぐすと泣いている。
そこへ<魔法使いの女>が現れる。
- 女
- なにをそんなに泣いているのです?
- 男
- ……だれ?
- 女
- 私なら、あなたの願いをきっと叶えてあげられますよ
- 男
- 願い……
- 女
- ええ。あなたの願いはなんですか?
- 男
- それは……見れば分かるでしょう?この泥だらけの姿
- 女
- たしかに。ひょろひょろで、頼りなさそうで、どうみても田舎臭い
- 男
- そこまで言わなくとも。でも、まぁ、とにかくそういうことです。
僕は誰からも愛されない可哀想なやつなんです
- 女
- なるほど。ではみんなに愛されるようになりたいと
- 男
- ええ
- 女
- 分かりました
- 男
- 分かりました、ってそんなことができるんですか?
- 女
- もちろんです。私を誰だと思ってるんですか?
- 男
- 知らないですよ
- 女
- ああ、そうですね。名乗り忘れていました。私は魔法使い
- 男
- 魔法使い?
- 女
- 先ずはあなたの、その見た目をどうにかしなくちゃね
- 男
- これは生まれつきなんです。土臭いってよく嫌がられて
- 女
- 大丈夫。先ずは洗いましょう
- 男
- は?
- 女
- だから洗うんです。全身を
- 男
- え?あの、魔法を唱えてちょちょいとどっかの国の王子とかに
してくれるんじゃないんですか?
- 女
- なにを言ってるの。何事も努力は大事よ。ほら、こっちきて
- 男
- ええ、痛い!痛い!それ、たわしじゃないですか?!
- 女
- だって長年の汚れはこれくらいしないと落ちないでしょ。
はい、次。お風呂につかって
- 男
- ひぇ.冷たい!これ!水風呂!
- 女
- 匂いをしっかり取らなきゃね。あとはあっちにサウナがあるから
- 男
- あつい!今度はあつい!ちょっと何するんですか?!
- <魔法使い>に、なにかかけられる<男>。
- 女
- あら良い男にちょい辛スパイスは大事よ。うん、いいかんじになってきたわね。
あなたにはきっと赤が似合うと思うの
- 男
- ほんとですか?本当にこんなんで大丈夫なんですか?!
- 女
- 大丈夫、大丈夫。私はこうみえてもベテランなんだから。
叶えたい夢は先ず、迷わず信じることが大切なのよ
- 男
- 分かりました!僕、がんばってみんなに愛される男になります!
- 女
- その調子よ!
- とある家庭の食卓にて。
- 夫
- うん、やっぱり君の作った食事は美味しいな。まるで魔法使いみたいだ
- 妻
- そっちのも食べてみて。今日はとくに美味しくできたの
- 夫
- うん、美味い!この絶妙な味付け。にんじんの甘みも混じって最高だよ
- 妻
- ダテに十年主婦やってませんからね
- 夫
- それにしても本当に美味しいなぁ。副菜の王子様だね。君のきんぴらごぼう
- END