- 峠の茶屋。お軽が茶団子を食べている。
- お美代
- お軽ちゃん。お待たせ。
- お軽
- お美代ちゃん。ごめんね、突然呼び出して。
- お美代
- 飛脚が来たときはどうしたかと思ったわよ。
- お軽
- (店の人に)すいませーん。お茶と団子、2つずつう!(お美代に)どう、最近。
- お美代
- 夜這いが多いわね。
- お軽
- お美代ちゃん、もてるもんなァ。
- お美代
- ただ声が・・・どうしても男なのよね。
夜這いに来た男が、あたしを男だと思って帰ることあるからね。
- お軽
- だよねー。最近は誰がよばってくんの?
- お美代
- はっつぁんとか、はっつぁんのお兄さんとか、はっつぁんのいとことか。
- お軽
- はっつぁんとこばっかじゃん。お団子きたよ。食べよ。
- 二人、お茶をすすったりする。
- お美代
- で?
- お軽
- えっ?
- お美代
- 何を悩んでるの?
- お軽
- 実は・・・。忠(ただ)ちゃん、ほかに女がいるかも。
- お美代
- 忠助さんに?あの、両替屋の手代の?
- お軽
- こないだ忠ちゃんとこ遊びいったら、こんな手紙が。
- お美代
- (読む)忠助さんへ。こないだの稲荷神社、楽しかったね。
今度は二人で会いたいな。おしげ。
- お軽
- 怪しくない?
- お美代
- そうね、このおしげは、忠助さんに気がありそうだけど、
忠助さんがどうなのかが問題よね。
- お軽
- こんな文もあって・・・。
- お美代
- 先日はすっぽん、ごちそうさまでした。
忠助さんにあんな一面があったなんて、驚き。かっこ、笑い。おひさ。
- お軽
- どんな面を見せたの、忠ちゃん!
- お美代
- 忠助さん。ややができました。あなたの子だと言わずに産みます。
来世では結ばれたい。おとみ。
- お軽
- 忠ちゃんの浮気もの!!
- お美代
- 忠助さん、お盛んねえ。
- お軽
- 忠ちゃんを呼び出して、問いただすわ!
- お美代
- やめときなさいよ。そしたらあんたが勝手に文みたこともばれちゃうし、
面倒な女だと思われて、祝言が遠のくわよ?
あんたもう18よ?忠助さん逃したら、後はないわよ?
- お軽
- でも~!このままじゃもやもやするわよ!!
- お美代
- がまんしなさいよ。
- お軽
- できない~!
- お美代
- そんな時はね、念仏を唱えるのよ。
- お軽
- 念仏?
- お美代
- そう。そうすれば心が不思議と静まるわ。
- お軽
- いやいやいやいや。
- お美代
- じゃあ唱えてみなさいよ。
- お軽
- 南無妙法蓮華経・・・。南無妙法蓮華経・・・。
(ちょっと落ち着いて)南無妙法蓮華経・・・。南無妙法蓮華経・・・。
- お美代
- どう?
- お軽
- ・・・落ち着いた。
- お美代
- でしょ?
- お軽
- すっごい不思議。
- お美代
- 私も昔、結婚すると思ってた男が、突然別の女と結婚した時、1万回唱えたわ。
すると心に仏が生まれて心がやすらかになったものよ。
その時確信したわ。女のもやもやには読経がいいと。
- お軽
- さすがお美代だわ。
- お寺の鐘がなる。
- お軽
- いけない、もう六つ時だわ。帰らなきゃ。今日、忠ちゃんと逢引きなんだよね。
じゃあね!
- お美代
- さよなら~
- カラスがひとつなく。終わり。