- 車道を車を走り抜けてくる音に紛れて賑やかな街のざわめきが聞こえてくる。
- 男
- やっぱり三ケ日は、すごいなー、賑やかだよー。
- 女
- 結構、有名なのよ…って、来たことある…んじゃないかな?
- 男
- うーん、どうかなあ…婆ちゃん家から近いから一緒に来たことあるかもしれないど…よく行ってたのって子供だったしなあ。
- 2人の歩く音。
- 男
- さっき、何お願いしてたの?
- 女
- 勿論…家内安全祈願。
- 男
- 新婚早々しっかりした、奥さんだ…次は?
- 女
- こっちこっち。
- 男
- …あ。
- 女
- 狐塚…通称キツネゾーン。
- 男
- すごいなあ、赤い前掛けしたキツネがこんなに…!?
あ…ここに来たことある。
ばあちゃんと、はぐれてここに一人で来ちゃったんだよ、確か。
子供には、なかなか刺激的な光景だったなあ。
- 女
- 迷子で泣いちゃったとか?
- 男
- まあな…でも、助けてくれた子がいて…そうだ女の子。
赤いワンピース着た女の子!
- 少女
- 「どうして泣いてるの?」
- 男
- 「道に迷って…婆ちゃんとはぐれちゃったし…ここ、なんか怖い」
- 少女
- 「もう泣かないの…!あたしがついててあげるから」
- 男
- 「ほんと!?」
- 少女
- 「うん…その代わり、約束して」
- 男
- 「なに?」
- 少女
- 「仲良しになりましょう」
- 男
- 「友達?」
- 少女
- 「それもいいけど、もっと仲良く」
- 男
- 「それって、なあに?」
- 少女
- 「そうね、あたしのことを、お嫁さんにしてもらおうかな。」
- 男
- 「お嫁さん…結婚するってこと?」
- 少女
- 「そうよ、あんた泣き虫だからほっとけないもの」
- 女
- で、何て言ったの?
- 男
- その辺りで、ばあちゃんが探しに来たから感動の再会で覚えてないんだよ。
- 女
- …肝心なとこでしょ。
- 男
- 小さかったし、ほんとキツネに囲まれまくってたから、夢かと思ってたけど。
ひょっとすると、シチュエーション的に…オレ、狐に化かされてるとか?
- 女
- え…バレてしまったら、仕方がありません。
- 男
- え。
- 女
- あの時の、キツネが…私なの。
- 男
- 何それ…狐の恩返し!?
- 女
- 助けてないし…助けられてるじゃない!
- 男
- だよな…って、何言い出すの。
- 女
- なーんてね。
- 2人、笑う。
- 男
- あ、雨。
- 2人、走って軒下に駆け込む。
- 男
- たいした雨じゃないな。
- 女
- むしろ、いいお天気よ。
- 男
- 狐の嫁入りってやつか…シチューエーションぴったりすぎ。
ほんとにキツネの嫁入り行列が見れそう。
- 女
- だって…今がそうだもの。
- 男
- ん?
- 女
- (誤魔化すように笑って)ううん、何でもない。
お昼にしましょう…この辺、稲荷寿司が美味しいの…あ、らしいわよ。
- 男
- お、いいね。
- 女
- (小声で)危ない危ない…。
- 男
- あと、一緒にうどんも食べたいなあ。
- 女
- あと、天ぷら稲荷もあるし、おきつねバーガーもいいわよ
…じゃなくて、いいらしいわよ。
- 男
- 何、お前詳しいな。
- 2人、楽しそうに。
- 終わり。