- 笛の音が鳴り響く。ピッピッ。ピッピ。
男、息を切らしながら走っている。
- トナカイ
- ファイト!(ピッピ)サンタ!(ピッピ)ファイト!
- 男
- (息を切らしながら)……ぜえぜえ…お、終わった!
- トナカイ
- 顔が笑ってないよ、笑顔!笑顔!サンタはいつだって笑顔!
そしてどんな状況でも素早くプレゼントを届けなくっちゃダメなんだよ。
- 男
- 「どうもサンタクロースです…って言ってもまだ見習いなんだけど。
只今、候補生としてトナカイ先生の元で猛特訓中!
この業界も高齢化が進んで、若者のトライアル雇用の動きが出てる。
お爺さんじゃなくてもOK!でっぷり太ってなくてもOK!
そんなこんなで鬼特訓にも耐えて毎日毎日、筋トレと笑顔の練習に励んでいた、
ある日のこと。」
- トナカイ
- ねえ、見習い君…近々結婚の予定は?
- 男
- え?いや…ないですけど…いつかはしてもいいかなって。
- トナカイ
- どういうこと?
- 男
- そりゃあ…恋人いませんし。
- トナカイ
- ええっ!?
だって…君、面接の時に「恋人」がいるって。
- 男
- ああ、あれ…なんか恋人がいないってなんか、かっこ悪くて見栄はっちゃいました。
- トナカイ
- 駄目だよ…サンタクロースになれないよ!?
- 男
- えーっ!?
- 男
- 「サンタクロースの雇用条件は大分緩和されていたが、全く変わらない条件は、
結婚していること若しくは結婚を約束している恋人がいること…だった。
理由は、どこかの良い子のママにキスをされても動じない証明となるらしい…
っていう…噂だけど。何だよそれ。
という訳で、俺は急遽…恋人探しの旅に出かけることにした。」
- シャンシャンと賑やかな街のざわめき。
- 男
- サンタクロースの恋人いかがですか!
あ、あのお嬢さん…あの話を…。
えーとサンタになるためには結婚相手を見つけなくちゃいけなくてですね。
そうそう…え…年収…?
年収は…良い子の笑顔ですかね?
行っちゃった…えーと、そこのお嬢さん…サンタの恋人いりませんか?
えっ、クリスマスイブの予定はって…勿論プレゼント配ってますね。
そうですね…デートは…難しい…ですね。
あ…行っちゃった…。
(溜息を付いて)なんだよ…サンタクロースって全然モテないな。
- 女
- あの…サンタクロースなんですか、本当に?
- 男
- はい…まだ見習いなんですけどね。
- 女
- さっきから見てて気になったんですけど…
- 女
- 手当たり次第というか…気持ちとか…時間とかお構いなしというか。
- 男
- はあ…数撃ちゃ当たるかなって。
- 女
- ひょっとして…今まで「恋愛」したことないんじゃないかなって。
- 男
- …。
- 女
- ごめんなさい…。
- 男
- 謝らないで…なんか辛いから逆に。
- 女
- あの…思うんですけど「恋愛」って相手と気持ちとか、
一緒にいる時間をプレゼントしあうってことなんじゃないかなって…。
- 男
- …なるほど。
- 女
- だから…サンタさんも誰かにプレゼントを渡す前に、
誰かからそういう「プレゼント」もらった方がいいんじゃないかって。
- 男
- ……。
- 女
- ごめんなさい…色々と…。
- 男
- いや…そういうのちっとも考えてなかった。
君からのガツンとした言葉がなかったら…気付けなかったなって。
- 女
- でも、今…気付いたじゃないですか。
- 男
- うん…。
- 2人、少し笑う。
- 男
- あの…また会える…かな?
- 女
- え?
- 男
- 君か貰った言葉の「プレゼント」のお返しにはならないかもしれないけど。
美味しいコーヒーとケーキの店があるんだよね。
ティータイムのプレゼント…させてもらえないかなって。
- 女
- …ありがとう。
- 音楽が流れる中、2人の話は楽しそうに続いていく。
- おわり。