- 町外れにぽつんとある一軒の家。
小さなバラのアーチがある入り口には<なんでもお悩み相談室>と、
看板がかけられている。
今日もひとりの女性がその家を訪れる。
- 女
- ……ごめんください
- 男
- はい、こんにちは
- 女
- 表に看板があると聞いてきたのですがよく見えなくて、その、こちらでよろしいんでしょうか
- 男
- はい。こちらが<なんでもお悩み相談室>です。どうぞ、おかけください
- 相談員の男は女性に椅子をすすめ、自分も座る。
- 女
- ありがとうございます。あの、どんな相談ごとでも大丈夫なんでしょうか?
- 男
- もちろんです。あなたの青いお顔を見たところ、なにか深刻なお悩みのようですね。
少し落ち着かれた方がいい。お茶でも飲まれますか?
- 女
- いいえ、結構です
- 男
- そうですか。では早速お聞きしたほうが?
- 女
- ええ。そのとても複雑なんです
- 男
- わかりますよ。皆さん、だれだって悩みを抱えるというのは、
とても複雑な気持ちになるものです
- 女
- いえ、私ではなく悩みは主人なんです
- 男
- ほう、ご主人が?
- 女
- ええ……実は数年前から少し様子がおかしくて
- 男
- それは、その少々お聞きしづらいのですが……ご主人の不貞を疑っていらっしゃるとか
- 女
- いえ、そんな滅相もありません。主人はいつだって、私のことを気にかけてくれています
- 男
- それは良かった。では一体……
- 女
- それが、ある日を境に主人は、
頭からすっぽりと大きな布をかぶって生活をするようになったのです
- 男
- 布を……?
- 女
- 正確にはクローゼットにしまっていた古いシーツです
- 男
- なるほど。で、ご主人はそのことについては何と?
- 女
- それが本人にはどうしても聞きづらくて。
そのままタイミングを逃してしまい今に至るんです。
初めて主人がシーツを被ったその日に聞いておけば良かったんですが……
- 男
- いえ、最愛のひとがある日急に変わってしまったら、
だれだって咄嗟には何もできないものです
- 男は椅子から立ち上がり、窓へと向かう。窓からは玄関のバラのアーチが見える。
- 男
- それにしても今日はいい天気だ
- 女
- まぁ、そうでしたっけ?
- 男
- 奥様。玄関先のバラのアーチは見られましたか?
いえね、園芸が私の数少ない趣味でして。今年も綺麗に咲いてくれました
- 女
- ええっと、そんなのありましたかしら……ごめんなさい。気がつかなくて
- 男
- いえ。ぜひ、帰りにご覧になられてください
- 女
- ええ
- 男
- ……これは私の想像でしかないのですが
- 女
- なんでしょう?
- 男
- そのご主人が被っていらっしゃるというシーツ。色は青ではありませんか?
- 女
- あら、よくおわかりになりましたわね。その通りです
- 男
- ところで、ひとつお聞きしてよろしいでしょうか?
- 女
- なんなりと
- 相談員は女性に向き直る。
- 男
- あなたが頭から青いシーツを被っているのにはお気づきですか?
- 女
- ええ、それがなにか?
- END