- 街中の雑踏。
自動ドアが開いて閉じられると、静かな空間。
- 男
- 涼しい…9月になったというのに、まだ暑いし。
外回りするにも、夏からこの調子じゃ…体が参る。
世間一般の営業マンはパチンコやネットカフェ…喫茶店で
時間潰しがてら休憩するって耳にするが、
俺みたいに図書館に足を運ぶのはどれぐらいいるんだろうか?
まあ、俺も小遣いがあったら…そうするんだろうけど、厳しいからな。
節約節約…っと。
- 少年とぶつかる。
- 少年
- あっ。
- バラバラと本が落ちる音。
- 男
- ごめんね…大丈夫?
- 少年
- うん…ごめんなさい、こっちこそ。
- 男
- 本、落ちちゃったね…(拾う)これで全部?
- 少年
- うん…。
- 男
- 随分、分厚い本ばっかりだね。
- 少年
- 足に…落ちなかった?
- 男
- うん、それは大丈夫…これ、全部読むの?
- 少年
- …うん。
- 男
- そっか…本好きなんだね。そういえば、よく見かけるもんな、君。
- 少年
- …。
- 男
- いつも、どんなの読んでるの?
- 少年
- えっと…これとか。
- 男
- おお、ミヒャエル・エンデ…俺も読んだな、ネバーエンディングストーリーとか!
- 少年
- ?
- 男
- あ、本当は「はてしない物語」って言うんだっけ…
はは、さっきのは映画化したときのタイトルね。
- 少年
- その本…好き。
- 男
- あれ、面白いよね!
- 少年
- あの…。
- 男
- ん?
- 少年
- どうして…何も、聞かないの?
- 男
- え?
- 少年
- 子供が…どうして学校じゃなくて、ここにいるのかって…。
- 男
- うーんと…上手く言えないけど…そういう時もあるし、必要なんじゃないかなって。
- 少年
- え?
- 男
- 大人だって…仕事したくないとか…ちょっとサボりたいとか、
そういうのってあると思うんだよ…
子供だけ、そういうのよくないって押し付けるの違うかなって。
- 少年
- …。
- 男
- まあ、実際…仕事サボって本読んだりしてる俺だから、言えないんだけどさ。
- 少年
- …。
- 男
- ああ…ごめんね、俺ばっかりベラベラ喋っちゃって…邪魔したね。
- 少年
- あ…ありがとうございます。
- 男
- え?
- 少年
- そんな風に言ってくれた…大人の人…初めてだから。
家にいると、お母さんは心配そうにしてるし。
外にいると、大人の人からいろいろ言われるし…だけど、学校には行きたくなくて。
この図書館だけは、ぼくみたいな子供にはそういうの言わないところだけど…
でも、たまに知らない大人から不思議そうに見られるから…だから。
- 男
- そっか。
- 少年
- うん…。
- 男
- もう一回…読んでみようかな。
- 少年
- え?
- 男
- 「はてしない物語」…映画もいいけど、
また本読んで場面を想像するのもいいかなって。
- 少年
- じゃあ…ぼくは映画をみてみようかな。
- 男
- そっか…もし観たら…感想教えてよ。
- 少年
- うん…おじさん、ありがとう。
- 男
- おじさん…ははは、お兄さんって呼んで欲しいかな。
- 少年
- ごめんなさい…お兄さん、またね。
- 男
- うん…またね。
- 男、少年を見送る。
- 男
- 参ったなあ…俺、仕事で疲れてんのかな…。
よし…少年時代に帰って、読書しますか。
- おわり