- 女
- 昔々…あるところに、女の子が住んでいました。
何の変哲もない小さな国の小さな村に、至って普通に暮らしていました。
ただひとつ女の子が違っていたのは、牛乳瓶の底のような分厚いレンズの
メガネをかけていないと、真っ白な霧の中にいるように、
何にも見えないということでした…。
村の子供達は、たったひとつ違うだけというのに…女の子のことを、
毎日のようにからかうのです。
可哀想に…女の子は、そんな自分のメガネをかけた姿を…
だんだんと恥ずかしく思うようになっていきました。
そんなある日…女の子が住む小さな村に、サーカスがやってきたのです。
女の子は、お父さんとお母さんに連れられてサーカスに出かけました。
キラキラと眩しい…まるで魔法のような世界がテントの中で繰り広げられています。
やがて、舞台に一人のピエロが、現れました。
そして…女の子に向かって手招きをしたのです…嬉しくなって思わず立ち上がった
女の子でしたが…大勢の人が、メガネを掛けた自分をジロジロ見たり、
ヒソヒソと何かささやきあったりする声を聞いて、
足がすくんで一歩も歩けなくなってしまいました。
そんな中、ピエロが女の子の元へやってきました。
- 男
- 「お嬢さん、素敵なガラスで出来た綺麗な仮面をつけていますね」
- 女
- ピエロがそういうと、今ままで冷たい視線を投げかけたり、ささやいていた人達が…
一斉に女の子のそのメガネを褒めそやしたり、素敵だとささやきあうのでした。
女の子が驚いていると、ピエロがそっと耳打ちしました。
- 男
- 「僕の魔法、すごいでしょう…でも、魔法はまだまだこれからですよ」
- 女
- (パタンと本を閉じて)ふーん…なるほどね。
- 男
- どう…かな?
- 女
- いいんじゃない…ラスト、どうなるの?
- 男
- ちょっと…悩んでいます。
- 女
- だから…私に読んで感想をって思ったんだ。
- 男
- それも、あるけど…1つお願いしていい?
- 女
- うん…いいけど。
- 男
- ちょっと、目をつぶってて。
- 女
- え?
- 男
- いいから。
- 女
- 分かった…こう?
- 男
- ありがとう…では。
- 女
- ちょっと…何、なんなの…?
- 男
- ああ…やっぱり。
- 女
- 何…っていうか、返してよ…メガネ。
- 男
- ええ、せっかく見れたのに。
- 女
- 私は…なんにも見えないんだけど。
- 男
- そうなんだ…ごめん。
- 女
- (メガネを返してもらう)もう、何?
- 男
- ありがとう…お陰で続きが書けそう。
- 女
- どういうこと?
- 男
- うん…これ書いてる時に、その大きなメガネをかけてる君の姿のことばっか浮かんで…ラストが書けなくなっちゃって。
- 女
- そう…で、答えは出た?
- 男
- うん。
- 女
- どうなるの…?
- 男
- 出来上がるまで…秘密。
- 女
- 何よ、それ?
- 男
- 駄目だよ、教えられないって…。
- と、2人が楽しそうに笑いながら話をしている。
- おわり