- 女
- 深夜12時、シャワーを浴びていると左の乳首が私に話しかけてきた。
私は夢を見ているようである。
- 乳首(左)
- 旅に出ようと思ってます。
- 女
- …旅ってどこへ?
- 乳首(左)
- …わかりません。とりあえずバスに乗っていけるところまで。
- 女
- …えっと。困るんだけど。
- 乳首(左)
- 大丈夫です。右の乳首はあなたの胸に留まると言っております。
- 女
- …いや、そういう問題ではなくて。
- 乳首(左)
- 問題はないはずです。長い間お世話になりました。失礼します。
- みしみし音がする。
- 女
- 痛い痛い痛い!!いや、ちょっと待って!だから困るって!問題あるよ!
普通は乳首が二つあるもんでしょ?
- 乳首(左)
- …どーしてあなたはいつも右の乳首ばかりを贔屓して、
この僕、左の乳首をないがしろにしてきたのですか?
- 女
- …えっと。
私は私なりに右の乳首と左の乳首を平等に扱ってきたつもりなんだけれど…
- 乳首(左)
- …はは。…ははは!!なんです!いったいこれのどこが平等なんですか!!
あなたは気づいてませんか?ええ、気づいてないでしょうとも!
今のあなたの発言がすでに不平等だってことに…!
- 女
- …ごめん。全然わからない。
- 乳首(左)
- あなたはこう言いましたよね?
「右の乳首と左の乳首を平等に扱ってきたつもりなんだけれど」って。
ではなぜ「左の乳首と右の乳首」ではないのですか?
- 女
- えっと君が問題にしてるのは、順番の問題ってこと?
- 乳首(左)
- そうです。
- 女
- それは普通は右、左、があれば、右から言うんじゃないの?
- 乳首(左)
- さようなら。
- みしみし音がする。
- 女
- 痛い痛い痛い!ちょっと待ってちょっと待って。
- 乳首(左)
- バスの時間です。
- 女
- 待って!!誤解だから。わかった。
君がそういうなら今度から乳首について言及するときは
「右の乳首と左の乳首」、ではなく「左の乳首と右の乳首」にするよ。
乳首について言及する機会があるかどうかは謎だけど約束する。
- 乳首(左)
- それだけ約束されても困ります!問題はもっともっと根深いんです!
「どちらの乳首を先に言うか」問題は氷山の一角です!
もっともっと乳首の洗い方とか…色々!色々です!!
違うんです!!…違うんです…
僕が言いたいのは…もっと僕を愛して…愛してくださいってことです!!
足りない!愛が!!愛が足りないんだ!
- 女
- …わかった。君だけを愛すから私の胸に留まってくれる?
- 乳首(左)
- (嗚咽を漏らしている)
- 女
- 私はなんとか左の乳首をなだめることができたようである。
だが私はそのときすっかり右の乳首の気持ちを忘れていたのだ。
- 乳首が弾け飛ぶ音。
- 女
- やりとりを聞いていた右の乳首は私の元を去っていった。
私の胸は右の乳首の涙で湿っていた。
- バスの揺れる音。
- 女
- 3日後、右の乳首は越後を走るバスの中にいた。
そこで右の乳首はなんでも口に入れることがマイブームの
幼稚園児に食べられたそうである。
- 終わり