- 学校。教室。放課後。
少年少女が、ノートを開いて二人きり。
チャイムの音。
- 少年
- 放課後。幼馴染のちーちゃんと、一緒に勉強することになった。
と言っても、居残りを命じられたのは僕だけで、ちーちゃんはそのお手伝いだ。
- 少女
- ちょっと! 聞いてんの?
- 少年
- 頼まれてもいないのに手伝ってくれるちーちゃんは、本当に優しい。しかも可愛い。
- 少女
- しゅう君!
- 少年
- え、ああ、ごめん。
- 少女
- なにボケーっとしてんの。あたしの顔になんかついてる?
- 少年
- いや、何も。問題、何だっけ。
- 少女
- もう。りんごを5つと、みかんを10個買いました。代金の合計は1500円でした。りんごの値段は、みかんよりも30円高いです。みかんは、1ついくらでしょう?
- 少年
- ちーちゃん。
- 少女
- なによ?
- 少年
- 好き。
- 少女
- え……なに、急に……。
- 少年
- ずっと前から、好きだった。
- 少女
- も、問題の、途中でしょうが……。
- 少年
- うん。ごめん、先にこれ終わらせなくちゃね。続けよう。
- 少女
- え、あ、うん。
- 少年
- えっと、どうやって解いたらいいのかな。
- 少女
- これは、りんごをxに置き換えて、方程式、作ったらいいから。
- 少年
- うーん、こうかなあ。
- 少女
- ちゃんとしっかり書きなさいよ。
- 少年
- だって、合ってるかどうか自信がないから。
- 少女
- 自信がなくても、とにかく行動!
- 少年
- ええと、5x+10(x+30)=1500……これでいいかな。
- 少女
- そうそう、そしたらあとは、式を開いて、移動させれば。
- 少年
- みかんは、一つ90円、かな。
- 少女
- 正解。
- 少年
- よし、あと一問だよね。さっさと終わらせて帰ろっか。
- 少女
- え、あ、うん。……お、終わったら、帰っちゃうの?
- 少年
- うん、遅くまで、ごめんね。
- 少女
- そんな、あたしは、別に、もうちょっとくらい……。
- 少年
- え?
- 少女
- ううん、行くわよ。三角形ABCはAC=BCの二等辺三角形である。
また、三角形ECDはEC=DCの二等辺三角形である。
角ACB=角DCEのときBE=ADとなることを証明せよ。
- 少年
- きゅ、急に難しいなあ。それ、ページ間違えてない?
- 少女
- ううん。これで合ってるわ。
- 少年
- 証明問題なんて、まだ習って……こんなの日が暮れるまで分からないよ。
- 少女
- ふふん。
- 少年
- なんか、りんごとかみかんとかにして欲しいんだけど。
- 少女
- ……女の子ちーちゃんは、好きな人ともっと一緒に居たい二等辺三角形である。
- 少年
- な、え?
- 少女
- 男の子しゅう君は、ちーちゃんのことが好きな二等辺三角形である。
- 少年
- 僕、二等辺三角形じゃないよ。
- 少女
- 女の子ちーちゃんがまだ習ってない二年生の問題を出したとき、
好きな人の好きな人=好きな人の好きな人であることを証明せよ。
- 少年
- それ、問題、変わっちゃってない?
- 少女
- うるさい! 証明しろ!
- 少年
- 難しいよ。元の問題より難しいよ!
- 少女
- いいから、しっかり答えなさいよ!
- 少年
- ええと。
- 少女
- ちょっと、何鉛筆なんか握ってんの。
- 少年
- え?
- 少女
- 愛の証明を紙に書くつもりか?
- 鼓動の音。
- 少年
- ……ど、どうすればいいの。
- 少女
- わかるでしょ。
- 少年
- 合ってるかどうか、自信ないけど。
- 少女
- 自信がなくても、とにかく行動! んむっ!
- 少女は少年にキスをされる。
- 少年
- そして僕は、ちーちゃんにキスをした。
夕焼けに染まって、彼女の頬に花丸が咲いたから、きっと答えは正解だったに違いない。
- END