- 目覚まし時計の音。
小さく唸る男の声。
ようやく目覚ましが止まる。
階段を降りてくる音。
- 男
- ・・・おはよう、母さんは?
- 女
- 父さんの車で買い物・・・お兄ちゃん帰ってきたし、ご馳走作るんじゃない?
っていうか、早いね・・・久しぶりの実家なのに。
- 男
- なんていうか、クセ?
- 女
- へえ・・・驚き。
- 男
- オレも社会人だしな。
- 女
- っていうか、お嫁さんの躾のタマモノじゃない?
- 男
- シツケ・・・子供じゃあるまいし。
お前、兄を捕まえて言うセリフか。
- 女
- だって、お兄ちゃん・・・目覚ましかけても起きれなくって、
母さんや私が起こしに行っても全然で・・・で、
寝坊したらよく私たちのせいにして怒ってたじゃない。
- 男
- いや・・・それは若気の至りってやつで・・・。
- 女
- お義姉さんちゃんとしてそうだもんね。
- 男
- いやいや・・・あいつ、朝弱いんだって。
- 女
- え・・・そうなの?
- 男
- もう起きないのなんの・・・毎朝、起こさないとずっと寝てるからな。
今頃、旅行先で寝坊してなきゃいいけど。
- 女
- へえ・・・あの誰が見ても完璧そうなお義姉さんが・・・。
- 男
- あ・・・これオレが言ったの内緒な。
- 女
- 言わないわよ。
- 男
- 絶対?
- 女
- ぜったい・・・。
- 男
- ・・・あ、言うなあ、これは。
- 女
- 言わないわよ。
- 男
- だって、お前・・・嘘つくとき口の端っこ、上がるから。
- 女
- ・・・・・・・・。
- 男
- あ、目玉焼き・・・オレも食べたい。
- 女
- お兄ちゃんの分もそこにあるから。
- 男
- ありがと。
- 女
- お味噌汁とご飯は自分でよそってね。
- 男
- 勿論・・・で、最近どう・・・彼氏というか未来の旦那さんと。
- 女
- うん・・・まあ。
- 男
- え・・・何かあった?
- 女
- 何もない・・・。
- 男
- 口の端・・・あがってる。
- 女
- あ。
- 男
- いただきます。
- 女
- あ・・・いや、まあ別に大してないんだけど・・・なんていうか・・・ねえ?
- 男
- ねえって・・・なんだよ。
- 女
- 大きいことはないのよ、何にも・・・小さいっていうか細かいっていうか。
- 男
- 醤油、とって。
- 女
- はい・・・え?
- 男
- え?
- 女
- お兄ちゃん・・・目玉焼きに醤油派だっけ?
- 男
- うん。
- 女
- 前はソース派だったのに。
- 男
- ああ、今はこっち。
- 女
- なんで?
- 男
- 一言で言えば、あいつのスタイル。
なんか毎朝、一緒に食事してるとなんていうのかな・・・
自然とそうなっちゃうっていうか。
ある日、ソース切らして・・・
あいつが買いそびれて何となく醤油かけてたらいつの間にかこっち側っていうか。
- 女
- そういうもん、結婚って?
- 男
- 一緒に暮らすって・・・気付いたら・・・相手に影響されることもあるし、
逆に相手もこっちに影響されることもあれば・・・
そのどっちでもない新しい事も含めた毎日にでもなるっていうか・・・
あ、その漬物貰っていい?
- 女
- え・・・お漬物嫌いだったのに・・・それもさっき言ってたみたいな?
- 男
- うん・・・あいつも好きじゃなかったらしいけど、ご近所さんに貰ったのをきっかけに・・・うん、旨い。
- 女
- へえ・・・なるほど。
- 男
- でさ、さっき言ってた細かいことって・・・何?
- 女
- うーん・・・っていうか、大丈夫かなって。
- 男
- え?
- 女
- なんか食とか日常のお互いの何気ない違いとか・・・気になってたんだけど。
今の話、聞いてたら・・・意外となんとかなるかもって。
- 男
- そっか・・・で、未来の旦那は目玉焼きソース派なの?
- 女
- マヨネーズ。
- 男
- ああ・・・そっちか。
- 2人、笑いながら話を続ける。
- 終わり。