- 夜。
焚き火を囲む男と少女。
- 男
- こうして、意地悪な大臣は瓶の中に閉じ込められてしまいましたとさ
- 少女
- ねえねえ、それから王様はどうなったの?
- 男
- ちゃあんと羊飼いの娘と結婚したよ
- 少女
- ああ、よかったあ。緑の帽子の猫は?
- 男
- 暖炉のそばで見つかった
- 少女
- やっぱりね!私もそこにいると思ってた!
- 男
- さあ、これでこの物語もおしまい
- 少女
- えー、もう終わりなの?
- 男
- めでたしめでたし
- 少女
- もっとお話してよ
- 男
- もう終わりだ
- 少女
- え?
- 男
- 私たちの旅は、もう終わりなんだよ
- 少女
- まだよ!まだまだ終わらないわ
- 男
- 今ので1000話めだ
- 少女
- もっともっと
- 男
- 約束だ
- 少女
- いや
- 男
- 君はもう、立派な大人だ
- 少女
- 子供よ!
- 男
- お話がなくても一人で生きていける
- 少女
- 物語が必要なの
- 男
- 私はもう、行かなければならないんだ
- 少女
- だめ!
- 男
- やれやれ。じゃあ、この焚き火の話をしてやろう
- 少女
- うんうん
- 男
- 焚き火はいつも喉が渇いている。ぼーぼー燃えているから。
そこへ水さんが水筒の車に乗って現れました
- 男、水筒をちゃぽちゃぽ。
- 少女
- うふふ。私が昼間に汲んどいたやつ
- 男
- うん。そうだ
- 少女
- で、どうなるの?
- 男
- 「やあ、焚き火さん。僕は空を飛んでみたいんだ」
「ふうん、そうかい。俺は喉が渇いてるんだ!お前を飲んでやる!」
「やめてええ!」
- 男、水筒の水を焚き火にかける。
舞い上がる灰神楽。
- 少女
- きゃあ!真っ暗よ!何も見えないわ!どこ?どこにいるの?
ねえどこにいるの?どこへ行ったの?どこにいるのかな?
- 少女の声はやがて、大人の女性の声に変わる。
- 女
- さあ、水さんはどこへいったのでしょう?
- 少年
- えっとね!蒸発した!
- 女
- ということは?
- 少年
- 空を飛んだんだ!
- 女
- その通り。水さんの望みは叶えられましたとさ
- 少年
- 焚き火さんは?
- 女
- ここにいるわよ
- 焚き火の燃える音。
- 少年
- まだ喉が渇いてる?
- 女
- ええ
- 少年
- かわいそう
- 女
- そうでもないわ。渇いているのはいいことだってある
- 少年
- ふうん。まだ僕には分かんないや
- 女
- そのうちね。お話、好き?
- 少年
- 大好き!
- 女
- もっと聞きたい?
- 少年
- うん
- 女
- じゃあ、これからも沢山話して上げるわ。あなたが大人になるまでは・・・
- (了)