- 赤い頭巾を被った女の子が森の中で花を摘んでいる。木の影から狼が女の子に話しかける。
- 狼
- もう少し、右の方です
- 女の子
- え?
- 狼
- ほら、そっちの方がお日様が良く当たるから沢山咲いてる
- 女の子
- 本当……とっても綺麗ね!
- 狼
- 風っていうんです
- 女の子
- 風?
- 狼
- それの名まえです。アネモネ。意味は風
- 女の子
- ああ。あなたが風なのかと思っちゃったわ。だって姿が見えないんだもの
- 狼
- 私は人間が驚くような醜い姿をしているので、あなたを怖がらせないために木の後ろに隠れてるんですよ
- 女の子
- あなた、人間じゃないの?
- 狼
- 私は狼です
- 女の子
- 狼……大丈夫よ。私、怖くなんかないわ。
だってあなたは、こんなに綺麗なお花が咲いてる場所を教えてくれたんだもの。出て来てお話ししましょう
- 狼
- 赤い頭巾のお嬢さん、勇敢なんですね。でもいけません。
いつか私が立派な姿になった時にまたお会いしましょう
- 女の子
- 立派な姿って?
- 狼
- 私はずっと昔に心の優しいおばあさんを食べてしまった罪で、神様から罰を与えられました。
何度、生まれ変わってもこの毛むくじゃらで醜い狼として生を受け、
人間から憎まれ続ければならないという罰を。
ですが、人間に千の良い行いをしたら立派な姿になれるとも神様はおっしゃいました
- 女の子
- 千の良い行い……
- 狼
- 実は先ほどあなたに花の位置をお教えしたのが九百九十九個目なんです。
あとひとつ、あとひとつで私は立派な姿になれるはず
- 女の子
- 分かったわ。じゃあ私がそのお手伝いをしてあげる
- 狼
- お手伝い?
- 女の子
- 今からおばあさんのお家におつかいに行くところなんだけど、あなたに道案内をお願いしたいの。
赤い屋根のおうちよ
- 狼
- なるほどなるほど!それなら任せて下さい!私はずっとこの森に住んでますからね。
だれよりもこの辺りのことには詳しいんです
- 女の子
- 良かった。一人で辿り着けるか不安だったのよ
- 狼
- ほら、あちらの方に煙突の煙が見えてるでしょう?あれが赤い屋根の家の方角です。
直ぐそこですよ。さ、先に進んで下さい。私が後ろから歩いてあなたが道に迷わない様にお連れしますよ
- 女の子と狼は歩き出す。
- 女の子
- ねぇ、狼さん。狼さんが想像する立派な姿ってどんな姿?
- 狼
- そうですね。例えば狩人のような……いや、狩人は狼を殺すしいけません。
ええっと、じゃああの空に飛んでる鷹のような……は、朝、私を起こしてくれる小鳥を苛めますし……
すいません。自分が立派な姿になったところなんて想像もつかなくて
- 女の子
- じゃあどんな姿になるか楽しみね
- 狼
- ええ。本当に楽しみです
- しばらく歩き、赤い屋根の家の前に到着する女の子と狼。
- 狼
- 着きましたよ!……あれ?
- 女の子
- ありがとう!狼さん、もう振り返って狼さんの姿をみてもいい?
- 狼
- おかしいな……どうしてだ?!今ので確かに千個目のはずなのに!
- 女の子
- どうしたの?後ろを向くわよ?
- 狼
- 駄目です!駄目です!……ああ、どうしてこのままなんだ!
ほら、とても醜いでしょう?恐ろしいでしょう?
- 女の子
- いいえ、ちっとも
- 狼
- だけどこの耳は?大きすぎます!
- 女の子
- 朝の小鳥のさえずりがよく聞こえるわね
- 狼
- でもこの目だって大きすぎる
- 女の子
- その目があるから、綺麗なお花を見つけれたのね
- 狼
- この手は?大きすぎますよ
- 女の子
- 握手をしていい?お友達の印に
- 狼
- こんな……こんな醜い姿のままの私で、いいんですか?
- 女の子
- 私には千の良い行いをしてきたあなたが、とても立派にみえるわ
- 赤ずきんは手を出す。狼はおずおずと手を伸ばし握手をする。
- 女の子
- ふかふかで気持ちのいい手ね。それにその大きなお口
- 狼
- ……ええ、これからあなたと沢山、お話しができるように
- END