- ハードボイルドな音楽が流れてくる。
ヒールでカツカツとした走り抜ける音と、追う靴音。
- 男
- 「もう、そこまでだ・・・観念してそれを渡すんだ。」
- 女
- 「それは出来ないわ・・・これを渡してしまうと、取り返しがつかない。」
- 男
- 「オレは、女を撃つ主義じゃないんだ・・・早くそれを・・・」
- 女
- 「じゃ、これでどう?」
- 男
- (キーボードを叩きながら)そう言って、ミス・パラレルワールドが、ガータベルトから、すかさずブローニングを取り出し銃口を男に向けてこう言った。
- 女
- 「死にたくなければ、3つ数えて」
- 男
- (キーボードを打ちながら)この暗黒街に銃声が鳴り響く。
果たして、これは両者どちらの銃声なのか。
ミス・パラレルワールドの運命や、いかに!
・・・どうかな、なかなかいけるんじゃないかな・・・たぶん。
- 女
- ダメよ、そんなの。
- 男
- ええ・・・そうかなあ・・・うーん、やっぱり・・・え!?
- 女
- ・・・何よ、急に大きな声出してびっくりするじゃないの。
- 男
- それ、こっちのセリフ・・・っていうか、君は誰!?
- 女
- 何言ってるの・・・私、ミス・パラレルワールド。
- 男
- は・・・ちょっと、ぶってみて。
- 女
- え?
- 男
- 早く。
- 頬を叩く音が聞こえる。
- 男
- いてっ・・・なに、夢じゃない。君・・・ミス・パラレルワールドが、何故ここに?
- 女
- 文句言いに来たの。
- 男
- え?
- 女
- なんか・・・最近の展開心配で。
最初は、近未来のSF小説っていう意気込みで出発したんでしょ、この小説。
- 男
- う、うん。
- 女
- それが、いつの間にか舞台が日本からアメリカになってない?
で、近未来のはずがなんかどう考えても、時間さかのぼってるのよ。
- 男
- 1940年・・・。
- 女
- えっ、2050年だったわよね、時代設定。
- 男
- いや・・・そこは・・・ミス・パラレルワールドが時をかけて・・・ね!
- 女
- ね!じゃないわよ・・・いつ、そんな描写あった?
で、3つ数えてとか・・・何、いつか何処かで聞いたようなフレーズ。
- 男
- ばれた・・・「三つ数えろ」って映画・・・ハンフリー・ボガードのサスペンス・・・。
- 女
- 何よ・・・それ、男が主人公だし・・・それパクリじゃない?
- 男
- (遮って)リスペクトって言って。
- 女
- ねえ、主人公は誰?
- 男
- ミス・パラレルワールド。
- 女
- だったら、もっと・・・なんかあるでしょう!?
- 男
- だって・・・あの・・・正直に言います。どうしたらいいですか?
- 女
- は?
- 男
- だって、全然この先も次の回も思いつかないんだよ。
- 女
- 何、それ行き当たりばったり感。
- 男
- すみません。
- 女
- そんなの私にも分かんないけど・・・私の要望言っていい?
- 男
- はい・・・どうぞ。
- 女
- もう、タイトスカートとかヒールとかいいかな。
足は痛いし、疲れるし・・・タイトスカートもピチピチして窮屈なの。
結構、食べたいもの我慢していつも努力してるんだけど。
- 男
- すみません・・・じゃあ、どんなのがいい?
- 女
- そうね、近未来の女子高生で放課後にテレパシーを受けて、
秘密の組織からこの街を守る・・・とか、どう。
- 男
- え・・・何、それ。
- 女
- 反動よ反動。だって、私・・・ミス・パラレルワールドは・・・
幾つもの可能性を駆け抜ける超時空をかける女、なんでしょ。
- 男
- まあ、そうだけど。
- 女
- じゃあ、これだってありじゃない。
- 男
- まあね・・・それか、小説家の奪われた記憶とアイディアを探し求めて
幾つもの可能性の世界を駆け抜けていく!?ってのは。
- 女
- それ、今の状況をとてもいい感じに弯曲してるよね?
- 男
- すみません・・・。
- 女
- まあ、いいわ・・・私と来て。
- 男
- え?
- 女
- まずは、あなたの失われたアイディアを探し求めて・・・
片っ端から色んな世界を駆け巡るわよ。
もしアイディアがなければ、作るのよ・・・。
- 男
- 作るって・・・?
- 女
- アイディアが浮かぶ、チャンスをね。
物語って、その気になればあなたが感じる限り幾つでも生まれてくる、きっとね。
- 男
- ・・・ありがとう。
- 女
- 早く、いきましょ。
- 男
- え、待って!
- 男、戸惑いながらも女に強引に連れられて思わず笑みがこぼれる。
- 終わり