ハードボイルドな音楽が流れてくる。
ヒールでカツカツとした走り抜ける音と、追う靴音。
「もう、そこまでだ・・・観念してそれを渡すんだ。」
「それは出来ないわ・・・これを渡してしまうと、取り返しがつかない。」
「オレは、女を撃つ主義じゃないんだ・・・早くそれを・・・」
「じゃ、これでどう?」
(キーボードを叩きながら)そう言って、ミス・パラレルワールドが、ガータベルトから、すかさずブローニングを取り出し銃口を男に向けてこう言った。
「死にたくなければ、3つ数えて」
(キーボードを打ちながら)この暗黒街に銃声が鳴り響く。
果たして、これは両者どちらの銃声なのか。
ミス・パラレルワールドの運命や、いかに!
・・・どうかな、なかなかいけるんじゃないかな・・・たぶん。
ダメよ、そんなの。
ええ・・・そうかなあ・・・うーん、やっぱり・・・え!?
・・・何よ、急に大きな声出してびっくりするじゃないの。
それ、こっちのセリフ・・・っていうか、君は誰!?
何言ってるの・・・私、ミス・パラレルワールド。
は・・・ちょっと、ぶってみて。
え?
早く。
頬を叩く音が聞こえる。
いてっ・・・なに、夢じゃない。君・・・ミス・パラレルワールドが、何故ここに?
文句言いに来たの。
え?
なんか・・・最近の展開心配で。
最初は、近未来のSF小説っていう意気込みで出発したんでしょ、この小説。
う、うん。
それが、いつの間にか舞台が日本からアメリカになってない?
で、近未来のはずがなんかどう考えても、時間さかのぼってるのよ。
1940年・・・。
えっ、2050年だったわよね、時代設定。
いや・・・そこは・・・ミス・パラレルワールドが時をかけて・・・ね!
ね!じゃないわよ・・・いつ、そんな描写あった?
で、3つ数えてとか・・・何、いつか何処かで聞いたようなフレーズ。
ばれた・・・「三つ数えろ」って映画・・・ハンフリー・ボガードのサスペンス・・・。
何よ・・・それ、男が主人公だし・・・それパクリじゃない?
(遮って)リスペクトって言って。
ねえ、主人公は誰?
ミス・パラレルワールド。
だったら、もっと・・・なんかあるでしょう!?
だって・・・あの・・・正直に言います。どうしたらいいですか?
は?
だって、全然この先も次の回も思いつかないんだよ。
何、それ行き当たりばったり感。
すみません。
そんなの私にも分かんないけど・・・私の要望言っていい?
はい・・・どうぞ。
もう、タイトスカートとかヒールとかいいかな。
足は痛いし、疲れるし・・・タイトスカートもピチピチして窮屈なの。
結構、食べたいもの我慢していつも努力してるんだけど。
すみません・・・じゃあ、どんなのがいい?
そうね、近未来の女子高生で放課後にテレパシーを受けて、
秘密の組織からこの街を守る・・・とか、どう。
え・・・何、それ。
反動よ反動。だって、私・・・ミス・パラレルワールドは・・・
幾つもの可能性を駆け抜ける超時空をかける女、なんでしょ。
まあ、そうだけど。
じゃあ、これだってありじゃない。
まあね・・・それか、小説家の奪われた記憶とアイディアを探し求めて
幾つもの可能性の世界を駆け抜けていく!?ってのは。
それ、今の状況をとてもいい感じに弯曲してるよね?
すみません・・・。
まあ、いいわ・・・私と来て。
え?
まずは、あなたの失われたアイディアを探し求めて・・・
片っ端から色んな世界を駆け巡るわよ。
もしアイディアがなければ、作るのよ・・・。
作るって・・・?
アイディアが浮かぶ、チャンスをね。
物語って、その気になればあなたが感じる限り幾つでも生まれてくる、きっとね。
・・・ありがとう。
早く、いきましょ。
え、待って!
男、戸惑いながらも女に強引に連れられて思わず笑みがこぼれる。
終わり