- ネバネバした音。
- 男
- うぉ……くさい……くさい。
- そこへ女がやってくる。
- 女
- あのすいません。あなたも遭難者ですか。
- 男
- ええ。そのようです。
- 女
- ここは……どこですか?
- 男
- ……わかりません。
- 女
- これ、納豆ですよね。
- 男
- そのようです。
- 女
- 世界はいつの間に納豆で溢れかえってしまったのですか?
- 男
- わかりません。気が付いたらここに。
- 女
- ……同じです。最後の記憶、それは納豆を食べている記憶……
- 男
- ……同じです。あ。
- 女
- え?
- 男
- ちょっと動かないで……頭に刻みネギが。
- ネギをとってやる。
- 男
- ほら。
- 女
- ありがとうございます。あ。
- 男
- え?
- 女
- ちょっと動かないで……頭に細切れのイカが。
- イカをとってやる。
- 女
- ほら。
- 男
- ありがとうございます。
- 女
- 納豆にイカはいれるタイプですか?
- 男
- もちろんです。イカの入っていない納豆なんてただの納豆です。僕の求める納豆はイカ納豆です。
- 女
- ……わかります。
- 男
- ……本当ですか?
- 女
- ええ。心の底から。
- 男
- ……はじめてです。イカ納豆に共感を示してくれた方は。あ。
- 女
- え?
- 男
- ちょっと動かないで……耳に何か入ってます。
- 男は何かをとってやる。
- 男
- これは……キムチだ。
- 女
- ……ごめんなさい。
- 男
- ……なぜ謝るんです?
- 女
- ……実は私、イカも大好きですけどキムチが……キムチ納豆が……好きなんです。
- 男
- ……僕もです。
- 女
- え?
- 男
- イカと同じぐらい……
- 女
- ……ふふふ。
- 男
- ……ふふふ。
- 女
- ……ここ、暖かいですね。
- 男
- ……ええ。納豆はいつでも僕らを優しく包んでくれる。ちょっと臭いですけど……
- 女
- その臭さに私は親しみを覚えます。
- 男
- ……さて、どうしましょうか?
- 女
- とりあえずどこか陸を探さないと。
- 男
- そうですね……ああ。そうか何か足りないと思ったら。
- 女
- なんです?
- 男
- ……ライスですよ。
- 女
- ……ああ。
- 男
- きっと陸にライスがあるんでしょう。
- 女
- ……卵もあるかな?
- 男
- ふふふ。ありますよ。
- 二人は納豆の海を泳ぎだして……
- 終わり