- チャイムが鳴る。ガヤガヤとにぎやかな声。高校の昼休み。
- 女
- おはよー。
- 男
- あれ、真下、今来たん? もう昼やで。
- 女
- うん。わー坂口また美味そなお弁当食べてるな。
- 男
- おう、食べる? 茄子。
- 女
- ありがとう(笑) でも今、あんま食欲ないねん。
- 男
- へー珍しいやん。具合悪いん?
- 女
- うーん。てか、わずらってんの、恋を。
- 男
- ……へえ。
- 女
- 私の話、聞く?
- 男
- いや、ええわ。飯食うし。
- 女
- ちょお、聞いてや(笑) あんな、三嶋がな、
- 男
- ミシマ?
- 女
- って、私が付き合ってるオッサンやねんけど。
- 男
- え、オッサン? ていくつ?
- 女
- サンジュ。
- 男
- うわ、めっちゃ大人やん。
- 女
- そうでもないよ。
- 男
- なーん。そんなん言うて(笑)
- 女
- (鼻で笑う)まあとにかく三嶋がな、私の物を隠すねん。
- 男
- 隠す?
- 女
- うん。歯ブラシやらクレアラシルやら、お泊りセットを置いとくやん。
それを隠すねん。奥に。
- 男
- 奥?
- 女
- なんか棚とかの奥ーの見えへんところ。
- 男
- はあ。
- 女
- おかしいやんな。なんで隠されなあかんの。私の存在がやましいってことやん。
- 男
- うん。それは浮気やな。
- 女
- 嫌やー! しかもな、
- 男
- 何。まだあんの。
- 女
- うん。そんなんあったから腹立って、しばらく連絡せえへんかってんやんか。三週間くらい。
- 男
- へー。そんで?
- 女
- そんで向こうからも何も連絡なくて、なんやねんと思ってて、したら昨日バッタリ会って。
- 男
- わー!
- 女
- 「わー!」やろ。でもな、めっちゃ普通!
この三週間はどこ行った!? みたいな感じで「おー。なっちゃんやーん」言うて。
「会えて嬉しいわー」みたいな。で、気付いたらまた三嶋の部屋におんねん。
- 男
- なんで!?
- 女
- 分かれへん。
- 男
- 自分のことやん。
- 女
- うんでもな、すっごい普通にしてくんねん。さらーっとポジティブゥな感じに持ってかれてて、せやし私もなんか、そーすんのが大人の対応ちゅうもんなんかなーと思ってもうて、
「あ、そうなんやー。うんうん、おっけおっけ。せやんなー」て。
- 男
- あかんて! それ全然普通ちゃうで。
- 女
- 分かってる。けど言われへんねんもん。
- 間
- 女
- 私かってほんまは話したいよ、色んなこと。部活のこととか。
- 男
- は? 部活?
- 女
- 色々あんねん、ハンド部……。
- 男
- おー……。
- 女
- でも言われへん。子供やと思われたら嫌やなーと思うと、色んなことが言われへん。
けどほんまは、色んなこと聞きたい。誕生日はいつなん? とか、好きな食べ物はなに? とか。あと、私らって付き合ってんのかな? とか。
- 男
- あー……。
- 女
- あとな、30で16を好きってぶっちゃけどうなん? ていう。
- 男
- それは俺も、思った(笑)
- 女
- やろ。なんか制服とかのプレミア感みたいなもんに惹かれてるだけちゃうか、とかさ。
思ってまうよね。
- 男
- まあなあ。
- 5限の予鈴が鳴る。
- 男
- げ、まだ全然食うてへん。
- 女
- わー坂口、ごめん。
- 男
- や、まあまだ予鈴やし。え、何、帰んの?
- 女
- うん。なんかちょっと、話してくるわ。
- 男
- 自由やな(笑) オッサン、仕事やないん?
- 女
- 待っとく。世界史、今度ノート貸してな。
- 男
- そらええけど。
- 女
- キレイな字で頼むで。
- 男
- 分かった(笑)
- 女
- ほなね。
- 男
- おー。がんばりやー。
- 男
- 真下は今日、泣くんかもな、と思った。見たことない真下の涙を想像して、僕は思い切りむせた。
- (了)