- 女
- 私は本当に駄目なやつだ。どこに行っても仕事が続かない。同じような上司、同じような先輩、同期、後輩。
ばらくするとしんどくなってくるありきたりな人間関係。
わかってはいるのだ。自分が求める理想の会社なんてないことは。
でもついつい次こそは次こそは思って退職してまう・・・
そんなある日のこと、帰宅すると家のドアに亀が挟まっていた。
- 女
- わ!
- 亀
- 助けてください。
- 女
- え・・・?何してるの?
- 亀
- 挟まってるんです。
- 女
- 見たらわかるよ。
- 亀
- パンツを盗もうとしたらこんな羽目に・・・ずっと狙ってたんです。あなたのパンツを。
- 女
- ・・・
- 亀
- すいません。でもほんと、狙ってたのはパンツだけなんです。決して僕の事を泥棒だなんて思わないでください。あなたの膨大な量のパンツコレクションは目を見張るものがあります。
- 女
- パンツが好きなの?
- 亀
- はい。
- 女
- ・・・そう。
- ドアが開く音。
- 亀
- ありがとうございます。
- 女
- ・・・パンツってどのパンツ?
- 亀
- もちろんイチゴのパンツです。決まってるじゃないですか。
- 女
- ・・・君は変態?
- 亀
- 変態じゃありません。ただイチゴパンツを求めてる、心優しきウミガメです。
- 女
- 警察に通報した方がいいかな?
- 亀
- やめておいたほうがいいと思います。だってあなた、めんどくさいの嫌いでしょ?
- 女
- ・・・うん。嫌い。
- 亀
- 今日も仕事やめてきたんですか?
- 女
- うん。なんかね。人間関係がね、
- 亀
- めんどくさくなって。
- 女
- ・・・うん。
- 亀
- いい職場があるんですけど。そんなあなたにぴったりの。
- 女
- え?本当に?
- 亀
- はい。助けてくれたお礼です。ご紹介致します。さぁ僕の甲羅にのってください。
- 甲羅にまたがる女。
- 女
- 私が甲羅にまたがると、甲羅がじんわりと熱くなった。
- 亀
- すいません。興奮してるんです。今日のパンツはなんですか?
- 女
- ・・・グレープフルーツのパンツだけど。
- 亀
- それは・・・素敵だ。
- 亀は頬を赤らめて笑うと、そのままマンションの5階から大空へ飛び立った。
空を飛ぶ音。
- 女
- しばらくすると海が見えてくる。亀は私を乗せて海へ潜って行く。たどり着いたのは竜宮城だった。
- 亀
- さて。ここが貴方の新しい職場です。実はですね。姫が最近失恋の痛手から心を病んでしまいまして。
退職してしまったんです。貴方には新しいお姫様になって頂きたく、この真面目な亀は思っておるのです。
- 女
- そうなんだ・・・お姫様の仕事って何するの?
- 亀
- 時折、私の甲羅にのった男がやってきては飲めや踊れやの宴をはじめます。
貴方には男が徹夜した朝に玉手箱を渡して頂きたいのです。それが仕事です。
- 女
- それだけ?
- 亀
- それだけです、ここには煩わしい人間関係はありません。
いるのはエビと魚と海藻と、あと今話をしている、真面目な亀です。
- 女
- その日から私は姫になった。毎日のように男がやってきてはばか騒ぎをし、玉手箱を土産に帰っていった・・・
悪くない。ここの職場、悪くない。
- 亀
- いかがですか?お仕事の調子は?
- 女
- うん・・・いい感じ。
- 亀
- それは良かった。
- 女
- ところで聞きたい事があるんだけど。玉手箱には一体何が入っているの?
- 亀
- それは貴方の知るべき事ではありません。もし開けたら・・・わかっていますね?
- 女
- 人間とは不思議なものだ。中を開けたらどうなるかわかっていても、どーしても中身を知りたくなる。
私は亀が出て行ったあと、玉手箱をあけてみた。
- 摩訶不思議な音。
- 女
- 中に入っていたのは、そう、私の・・・レモンのパンツ。
私は待つ。亀が帰ってくるのを。よく尖った海鮮包丁を背中に隠して。
- 終わり