とある路地裏で、左耳がとてもとても大きな猫がその耳をポリポリとかいている。
もし・・もし
小さな声がどこかで聞こえる。
もし、そこの立派な左耳を持った猫さん
ようやく猫はその声に気づく。しかし、声の主は見当たらない。
・・どなたです?
小人
私は小人です
小人さん・・はて、姿が見当たらないのですが
小人
はい、私はとてもとても小さいので目では見えないんです
なるほど。で、その小さな小人さんがこの猫の私になんの御用です?
小人
はい、実はその大きな左耳があまりにも立派なので思わず声をかけさせていただいた次第でして
この左耳ですか・・
猫はまた左耳をポリポリとかき、少し悲しそうな顔をする。
立派なんかじゃありませんよ
小人
おや、どうして
右耳とサイズがまったく合っていません。左耳が重いせいで歩き方だって、なんだか不格好で
小人
その大きさは生まれつきなのですか?
そうですよ。これのせいで私だけが貰い手がなかったため、
兄弟たちは皆あたたかい家のなかに住んでるっていうのに、私は吹きさらしの路地裏暮らし
小人
ここだってそう悪くはないじゃないですか。屋根がないおかげでお月様を見ながら眠れます
それにね、何より腹立たしいのは、この左耳はすぐに沢山の埃が溜まってしまうから、
いつも痒くてしょうがないんです
小人
なるほど。それは大変ですね
こんな大きな左耳なんて厄介なだけ。なんの役にも立ちゃしないんですよ。
だから立派なんかじゃありません
しばし考え込む小人。
小人
猫さん、ひとつご提案があるのですが
提案ですか?
小人
はい。その大きな左耳に・・私を住まわせてはくれませんか?
この左耳に小人さんが?住む?
小人
私は余りにも小さすぎて、いつも踏まれやしないかびくびくしながら過ごしているんです。
だからその左耳に住ませてもらえたら私はこの先、安心して暮らせるようになります
なるほど
小人
もちろんただでとは申しません。私を住まわせてくれたら、
お礼に左耳の中に溜まった埃を毎日掃除して差し上げましょう
・・本当ですか?
小人
ええ、どうです?
なるほど、なるほど!それはぜひ、よろしくお願いします
小人
では交渉成立ということで、早速
小人は猫の左耳の中に入り、よいしょ、よいしょと埃を.き出し始める。
おお、これはこれは!なんて気持ちがいい!
猫は気持ち良さそうに喉を鳴らす。
小人
やはり思った通りです。猫さんの左耳の中は柔らかくてとても居心地がいい
小人も嬉しそうにニコニコと笑う。
小人
私は小さいせいで今まで誰のお役にも立てたことがありませんでした。
でも小さいおかげで今はこうやって猫さんの役に立つことができます
私もこの厄介だった大きな左耳がようやく誰かの役に立つときがきました
猫と小人はとても満足げな様子。
おや。今、気づきました。今夜はとっても大きな満月だ
小人
ええ、本当ですね。猫さんの左耳のように立派なね
END