- 女が部屋で荷物を整理している。
- 女
- あ・・・・こんなところにあった、アルバム。
- 父
- まだ、起きとったんか?
- 女
- お父さんこそ・・・・あ、起こしてもうたんかな。
- 父
- いや、そやないけどな・・・・・まだ、荷物まとめてたんか。
- 女
- なんか、片付けしてると色んなもの出てくるから・・・・。
- 父
- そういうとこ、お母さんと似てるよな。
- 女
- そう?
- 父
- あいつも、片付けしてるといつも本筋からそれて、別のことしとる。
- 女
- でも、アルバムはきちんと、しとる・・・見て。
- 父
- アルバムか・・・・・よお残ってたな。
- 女
- あの後・・・・しばらくしてお母さん探してたもん・・・・
2階にあったから良かったんかも。
- 父
- そうか・・・・・2階にあったんか。
- 女
- 写真・・・・私とお父さんばっかり。
- 父
- あいつ、写真は苦手やからって言うねん。
- 女
- お父さんも、苦手やんね・・・・?
- 父
- なんで?
- 女
- だって・・・・・なんか、顔が笑ってないやん。
- 父
- まあ・・・俺も写真はなんか苦手や・・・。
- 女
- でも、来週はちゃんと写真で、ええ顔してや。
- 父
- うん・・・・やってみるわ。
- 女
- (笑いながら)緊張せんでいいで、普通でええから。
- 父
- なあ・・・・もっとちゃんとした式せんでええんか。
- 女
- え?
- 父
- なんか、折角やからパーッとしたやつ。お色直しとかなんか色々あるやろ。
- 女
- (笑いながら)何時の時代の結婚式よ・・・式挙げれるだけで充分やって。
- 父
- でもなあ・・・。
- 女
- (遮るように)そんな、40手前の花嫁で派手婚はちょっと恥ずかしいって。
- 父
- お前も、落ち着いたなあ・・・・昔はなんか派手やったのに。
- 女
- ええ・・・・・そう?
- 父
- そうや・・・・・夜遊びもようしとったし、困った娘やったよ。
- 女
- ちょっとちょっと・・・・そんなん行ってへんよ。
私の部屋、2階にあって夜抜け出すなんて至難の技やったよ。
- 父
- (笑って)やっぱり、お前はまだまだ子供やなあ。
- 女
- 何がよ?
- 父
- 縄はしご
- 女
- あ・・・・・・。
- 父
- 縄はしごで、お前・・・・夜によう抜け出しとったんやろ。
- 女
- (ごまかすように笑う)・・・・・なんや、分かってたんや。
- 父
- まあ、そのおかげで命、助かったんやからな。
あの時・・・・飛び起きたら1階潰れてもうて、窓見たら・・・・お母さんが早く早く!って叫んでるけど、それでも高いから飛び降りるなんてよおせえへん・・・・
どないしよって思ってたら、お前が・・・
- 女
- 「早くこっから降りよう!」って言ったんやっけ。
- 父
- そうそう、お手本みたいにスルスル降りていったもんな。
釣られて、俺もスーッと降りていけたんやけど。
- 女
- せやったね・・・・・。
- 父
- 後で、なんでこんなん持ってんねん・・・・って聞いたら
- 女
- 「こんなこともあろうかと思って持っててん!」って、言ったんやったけ。
- 父
- しどろもどろやったけどな・・・・
あ、これはって思ったけど、お母さんには黙っといたからな。
- 女
- 今更、言われても・・・・・お母さんも知ってたけど。
- 父
- え、そうなんか・・・・なんやねん、おもろないなあ。
- 女
- お母さんは
「あんたが多少悪くてもお父さんの命助けてくれたんやったらいいわ」って言ってた。
- 父
- あれから20年か・・・・そりゃあお前も、落ち着くよな。
- 女
- もう、恥ずかしいから・・・・あの人には内緒にしとってよ。
- 父
- 言わへんよ・・・・家族だけの内緒の話や。
タバコ、吸ってええか。
- 女
- もう・・・・ええけど、ちょっと窓開けてな。
- 父
- (窓を少し開ける)やっぱり寒いなあ・・・・換気扇の下で吸うわ。
- 女
- あ、満月。
- 父
- また何回も満月見てきたけど・・・・こうやって満月見れるってええな。
- 女
- お父さん、ありがとう・・・・・。
- 父
- まだ言わんでいいよ・・・・結婚式はまだ先やねんから。
でも、礼を言うのはこっちやな・・・・ありがとう。
- 2人、少し笑って寒空の満月を見る。
- 終わり