- 携帯のアラームが鳴る。
- 男
- あ、もうこんな時間か(切る)
- 女
- ねえ、たっくんきいてるの?
- 男
- ごめん、そろそろ帰らなきゃ
- 女
- なんのアラームなのよ
- 男
- もうすぐ終電だよってお知らせ
- 女
- そんなのどうでもいいじゃない。もっと話がしたいの
- 男
- 悪いけどさ、明日も会社だから帰んなきゃ
- 女
- 今、すんごい大切な話してるよね、私たち
- 男
- 京子、ごめん。俺たちもう、無理だよ
- 女
- そんな・・・
- アラームが再び鳴る。
- 女
- うるさい!
- 男
- (切って)もう、行くね
- 女
- 待って!
- 男
- ほんと、ごめん。合鍵はまた、今度返してくれればいいから
- 女
- 今度なんてないくせに
- 男
- ごめん
- *
アラームが鳴る。
- 男
- (目を覚まし)なんだよ、こんな時間に・・・
(画面を見て)ドラマの時間?
俺、こんなアラームセットしたかな?
- 男、テレビをつけて、ザッピング。
ドラマのチャンネルにあたる。
- 男
- 見たことあんな、このドラマ、なんだっけ・・・・
- と、今度は携帯が鳴る。
- 男
- もしもし?
- 女
- 私だけど
- 男
- 知ってるよ
- 女
- 今、あのドラマの再放送見てるんだ
- 男
- あのドラマ?
- 女
- 覚えてないの?昔、二人でよく見たやつ
- 男
- ああ、それで見覚えあるのか。俺も見てるよ、今
- 女
- ほんと!?偶然!
- 男
- まあな
- 女
- これ見てた頃、なつかしいね。二人でベッドにねっころがって見てた・・・
- 男
- あのさあ、ちょっともう、眠いから切るね
- 女
- ドラマ見ながらしゃべろうよ
- 男
- 無理だから、ほんと
- 男、携帯を切り、テレビも切る。
- 男
- はあ・・・。なんなんだよ、一体。変な電話かけてくんなよな
- 男、頭から布団をかぶる。
アラームが鳴る。
- 男
- 今度はなんなんだよ!寝かせてくれよ!・・・・
ミルクの時間?はあ?
- 台所の方でレンジのちんという音がする。
- 男
- え?なに?誰かいんの?台所?
- 男、言いながら台所に行き、レンジを開け、カップを手に取る。
- 男
- ホットミルク・・・あいつがいつも作ってくれてた・・・
- アラームが鳴る。
- 男
- うわあ!・・・(画面を読み)帰宅の時間・・・(切る)
どういうことだよ、これ・・・・
- 玄関の扉が開く音。
- 女
- ただいま
- 男
- きょ、京子・・・・
- 女
- 遅くなってごめんね
- 男
- なにしに・・・
- アラームが鳴る。
- 男
- わ!
- 女
- アラーム、鳴ってるよ
- 男
- さよならの時間・・・・
- 女
- ばいばい、たっくん
- 男
- やめろ、やめろ、やめろーーー!
- 男の叫び声をかき消すように、アラームが鳴り響く。
- (了)