- 僕
- 日曜日の昼、茹ですぎたざるそばを食べていると隣に吸血鬼が引っ越してきた。
- チャイムが鳴る。
ドアを開ける音。
- 吸血鬼
- はじめまして。隣に引っ越してきました合田と申します。すいません騒がしくしちゃって。
- 僕
- いえいえ。
- 吸血鬼
- これ、つまらないものですがどうぞ。
- とガサゴソと箱を渡す。
- 僕
- ああ。すいません。
- 吸血鬼
- 甘いもの大丈夫ですか?
- 僕
- ええ。妻が好きですから喜ぶと思います。
- 吸血鬼
- ああ。そうでしたか。
- 僕
- すいません。ちょっと今、いなくて。
- 吸血鬼
- そうですか。ではまた改めて挨拶させて頂きますので。
- 僕
- いえ。そんなに気を使っていただかなくて結構ですよ。
- 吸血鬼
- いえやはり直接お会いしてお話した方がいいと思うんです。
じゃないとなかなかわかってもらえないと言いますか・・・
- 僕
- はぁ・・・
- 吸血鬼
- 実は私、吸血鬼でして。
- 僕
- ・・・は?
- 吸血鬼
- ね?そうなるでしょ。でもやっぱり予めご近所さんには伝えておくべきだと思って。
つまりですね。夜な夜なベランダから飛び出すんで羽音がうるさくなる可能性があるといいか。
しかも私一人じゃなくて旦那と息子も一緒ですから計三回、こう、ばさばさ!ばさばばさ!って壊れたビニール傘を無理矢理開くようなですね、なかなかに不快な音がですね・・・
聞いておられます?
- 僕
- あ。はい。
- 吸血鬼
- それからもしかすると部屋から異臭がする可能性もあるんで、
それもご了承していただければと思いまして・・・でもその代わりといっては何ですが、
ご近所さんのことは襲ったりしませんのでご安心ください。では、私と契約していただけますか?
- 僕
- え?契約って何です?
- 吸血鬼
- 他言はしないって契約。
- 僕
- ああ・・・えっとどうやって契約は?
- 吸血鬼
- 口約束で大丈夫ですよ。一言、わかりました。と言っていただければ。
- 僕
- じゃあ・・・わかりました。
- 吸血鬼
- はい。いただきました。ありがとうございます。初めてですよ、あなたみたいに物わかりがいい人。必ずみんな私たちのことを変だ変だなんだって言い出すんです。
- 僕
- いや、ちょっと今、僕、変な感じなんで。割と何でも受け入れられるっていうか。
- 吸血鬼
- はぁ・・・とりあえずそういうことなので奥様との契約は後日また改めて。
- 僕
- あ・・・あのすいません、実は妻はしばらく戻らないというか。
- 吸血鬼
- え?そうなんですか。
- 僕
- ええ。実は、ちょっと奥で寝ていて。
- 吸血鬼
- え?寝てる?
- 僕
- つまり妻は本当は奥にいるんですが、別の意味で戻らないというか・・・
- 吸血鬼
- あー・・・どうりで。さっきから匂いがするから変だと思ってたんですよ。
そうでしたか。
- 僕
- ちょっと色々ありまして。ざるそばはやっぱり固めが好きというか・・・
それで、ちょっと…
あのよかったらたくさんあるんで飲んでいきません?
- 吸血鬼
- ・・・
- 僕
- いや本当にもしよかったらでいいんですけど。
- 吸血鬼
- えっと・・・いいんですか?
- 僕
- ・・・はい。
- 吸血鬼
- 今、旦那と息子が積み降ろししてるんですけど、呼んできてもいいですか?
- 僕
- もちろんもちろん。助かります。
- 吸血鬼
- いやぁ。お昼助かりました。
- ドアの閉まる音。
- 僕
- しばらくすると3人の吸血鬼がやってきた。僕は彼らを浴槽に案内した後、
リヴィングで茹ですぎたざるそばの続きに取りかかった。
浴槽からは奇妙な音が聞こえてくる。
- 終わり