- ファッションショーのバックステージ。
まもなく本番。慌ただしい雰囲気。
- 先生
- (手を叩き)さあ、きいてちょうだい!
今日という日を迎えられるのもみんなのおかげよ!
ベリー・ビッグ・サンキュー!半年間、本当にご苦労様。
あと五分でショーの幕が開くわ!
ファッション界に旋風を巻き起こすのよ!
- モデル
- 先生!
- 先生
- なに、マリエ。あなたには期待して・・・
- モデル
- やっぱり、私無理です!
- 先生
- 無理?一体どうしたのよ!
- モデル
- 私、自信がないんです・・・
- 先生
- 何をいってるの?あなたほどのモデルが今更弱音を吐くなんて!
- モデル
- どうか・・・どうか、最後の衣装は控えのモデルの子でお願いします!
- 先生
- マリエ。よくきいてちょうだい。緊張は誰にだってあるわ。
私だってそう。今でもこの小さな胸が張り裂けそうなの。
みて、こんなに胸毛が逆立ってる!ぼわぼわしてる!
- モデル
- 緊張なんかじゃありません
- 先生
- オーケイ。分かったわ。他の子には内緒で貴方のギャラを倍にしてあげる
- モデル
- お金の問題じゃないんです!
- 先生
- じゃあ、いったいなんなの!いい?あの服はあなたの為に作ったのよ。
他のモデルになんか袖を通させないわ
- モデル
- それが問題なんです
- 先生
- どこが
- モデル
- だから、その服が・・・
- 先生
- もしかして、私の服が、お気に召さないとでも・・・
- モデル
- ・・・はい
- 先生
- え?
- モデル
- 私、着たくないんです!
- 先生
- な、な、な、なんてことを言うの!
- モデル
- イヤなものはイヤなんです!
- 先生
- どこが!あの服のどこがいけないっていうの!
- モデル
- だって、ないじゃないですか!
- 先生
- オウオウオウオウ!マリエ!あなたには見えないの?
あの素晴らしい デザインが!
- モデル
- 見えません!ハンガーだけしか見えません!
- 先生
- ちゃんと心の目で見てちょうだい。そうすれば貴方にもみえるはずよ
- モデル
- いくら目をこらしても無理なんです!
- 先生
- 目を閉じて。頭に思い浮かべるの。自分にとって最高のデザインを。
いえ、宇宙を。あなたは銀河をまとうのよ。さあ、目を開けて。
ほら、ハンガーに星々の輝きが・・・
- モデル
- 見えません!
- 先生
- 思いが足りないのよ
- モデル
- 一週間も前から毎日100回以上やりましたけど、
なんにも見えてこないんです!
- 先生
- 宇宙パワーが足りないんだわ!私のを分けて上げる!せい!せい!せい!
- モデル
- ちょっと、痛いです
- 先生
- おっしゃこら!おっしゃこら!
- モデル
- やめてください!
- 先生
- やめないわ!あなたのためだもの!ざっしゃあ!ざっしゃあ!
- モデル
- 痛い!痛い!
- ステージの方から音楽が聞こえる。
- 先生
- はじまったわ!早く!早く裸になって宇宙をまとうのよ!
- モデル
- まとえません!
- 先生
- トップバッターの貴方がでなくてどうするの!
- モデル
- 他の子でお願いします!
- 先生
- 他の子に着せるくらいなら・・・私が着るわ!
- モデル
- え、ちょっと、それは・・
- 先生、服を脱ぎ出す。
- 先生
- これでもね、通ってた男子校イチの美少年だったのよ!
パンツなんて ね、宇宙じゃなんの役にも立たないのよ!
- モデル
- 先生、まずいですよ!
- 先生
- お黙り!この負け犬!目を閉じて、最高のデザイン、最高のデザイン!
見えた!見えたわ、宇宙が!うおおおおおお!素晴らしい!
薄い絹が何枚も重ねられ、宇宙の深い暗闇を表現している!
ちりばめられた人造ダイヤモンドは星々の輝き、流れ星のごときリボン。
甘く締め付けるフォルムは、ブラックホールのように私を呑み込んで行く!完璧だわ!
- モデル
- ただの裸ですよ!
- 先生
- ファッションの新しい歴史が今、刻まれる!幕をあけて頂戴!
- 音楽が一段と大きくなる。
- 先生
- 皆様お待たせしました!宇宙の誕生でーす!
- 先生、ステージに現れる。
客席から怒号と叫び声。
- モデル
- これが・・・これがプロなんですね、先生・・・・!
- 先生
- 宇宙が今、誕生したのよーーー!おほほほほほほ!
- 怒号と叫び声、大きくなる。
- (了)