- 風の音
スーパーのある一角。
子供達の声。
まり子が犬のように呼吸している。どうやら興奮しているらしい。
!
- まり子
- はっはっはっはっはっは・・・
- ○○○○○○○
- おい、自分、大丈夫か?
- まり子
- なぁなぁ!なぁなぁ!ここは天国なん!?ドーナツがどんぶらこどんぶらこ、
右から左へところせましと流れとる!
- ○○○○○○○
- そりゃあここはドーナツ屋やしな。しかも今話題の流れるドーナツ屋さんやねんで。
そしてドーナツを流す事、それが俺の生き様であり生き甲斐なんや。
- まり子
- うち、まり子っていうねん、無類のドーナツ好きとして名を馳せてんねんで。
- ○○○○○○○
- そりゃあ好きやろ。俺はドーナツを好まん子供を未だかつて見た事ないわ。
おい、まり子、足を止めるな。見とれてたらあかんで。後ろがつかえてしまうやろ。
ここはお客さんも並びながらレジへ向かう仕組みやねん。
- まり子
- おかあちゃんに言われてう。ドーナツ、一個だけ買っていいって。
今日は月に一回のセールやし100円やって。見てこれ。100円玉。かっこええやろ?
- ○○○○○○○
- どれでも好きなのを選んだらええで。何味が好きなん?
- まり子
- チョコレート!
- ○○○○○○○
- お。そしたらちょうど今、目の前を流れてきたで。それにしぃ。
- まり子
- あ!でもシュトロベリーも好き!
- ○○○○○○○
- それならチョコレートの隣や。
- まり子
- え!?ちょっと待って!向こうから流れてくるあの緑色のやつは何?
- ○○○○○○○
- あれは新発売のメロンパン風ドーナツ。大人気ドーナツやな。
- まり子
- すごい!食べたい!メロン!ちゃまらん(たまらん)!
- ○○○○○○○
- じゃあそれやな。
- まり子
- は!ちょっと奥さん!あの茶色いのは!?
- ○○○○○○○
- あれはきなこ味。
- まり子
- うち、きなこ好き!
- ○○○○○○○
- おいまり子、おまえ、選べるの一個やろ。
- まり子
- せや!
- ○○○○○○○
- あんまり悩んでたら大変なことになんで。早く決めんと。
- まり子
- え?え?え?そんな事急に言われても、うち困る。おろおろ。おろおろ。おろおろ。
あ!また新しいやつ流れてう!
- ○○○○○○○
- おろおろ言いながらおろおろするやつ初めて見たわ。
- まり子
- そんなん決められへん!ちょっと流れ止めて!
- ○○○○○○○
- それはできひん相談やな。人生と一緒や。
時の流れ、もといドーナツの流れを止めることはできひん。
- 風の音
まり子はぐるぐると猛烈に悩みだす。
- まり子
- チョコレート、シュトロベリー、メロン、きなこ、他にもいっぱい・・・
チョコレート、シュトロベリー、メロン、きなこ、他にもいっぱい・・・
- 風の音
するとそこはレジ。
店員がいる。
- 店員
- いらっしゃいませー。ようこそ、ぐるぐるドーナツへ。
- まり子
- ほえ?
- 店員
- あれ?お嬢ちゃん、ドーナツは?
- まり子
- えっと・・えっと・・・す、す、好き!!
- 店員
- んー。そういうことじゃなくて、君の持ってるトレイに一個もドーナツがないんだけど。
- まり子
- う、う、う、う、うわあぁぁぁぁぁん!!おかあちゃーん!!
- 風の音
まり子が泣き出す。すると母親がやってくる。
- 母親
- あら。まり子、あんた、なんで泣いてるん?ドーナツは買ったんか?
- まり子
- 買えへんかった!早すぎた!ドーナツの流れ、早すぎた!
あれ食べたいこれ食べたいしてたら選べへんようなったぁぁぁ!うわぁぁん。
- 母親
- あんたは優柔不断やからな。さっきはチョコレートにする言うてたやんか。
- まり子
- もう一回並ぶ!
- 母親
- えー!また?すごい行列やんか!
- まり子
- 次はちゃんと決める!お願いお母ちゃん!一緒に並んで!
- 母親
- しゃーないなぁ・・・で、何にするん?
- まり子
- えっとえっとえっとえっと・・・チョコレート!ちゃう!シュトロベリーちゃう!
メロン!ちゃう!きなこちゃう!やっぱりチョコレート!ちゃう!!・・・・
- 終わり。