- 女
- 実は・・・・・私、かなり参っています。
えっ・・・女の子が、声を大にして言う悩みなんて・・・・彼氏のことなんです。
今お付き合いしている彼とは、かれこれ1年ぐらい。
合鍵なんかも、貰っちゃて・・・・・仕事が忙しい彼に代わって・・・・
掃除したり、お料理作ったり・・・・もうこれ、近々・・・・
もしかしたら、もしかするような感じになっちゃうんじゃないかなあなんて・・
上機嫌だった、1時間前のこと・・・・・。
- 掃除機をかける音。スイッチが切れる。
- 女
- もう、こんなとこに荷物置いちゃって・・・・新しい、洋服でも買ったのかな?
- 紙袋をガサガサする音。
- 女
- え・・・・・・・これって・・・女物?
- ガサガサ。
- 女
- 化粧ポーチ・・・・ファンデーション、チーク、アイシャドウ・・・口紅。
私が使ってるブランドと全然・・・・・違う。
何、これ・・・・・ひょっとして、ひょっとすると・・・ううん、そんな彼に限って・・・。
という、訳なんです・・・・え、彼のことを疑ってるかって?
いや、そんなことは・・・ないです、うん。
でも、最近・・・・・仕事が忙しくって、あんまりデートしてないし。
ああ・・・でも、本当に仕事が忙しいかもしれないし・・・。
え・・・・・彼のこと信じてるなら、どうして参ったりしてるんだって?
だって・・・・・そんなの、決まってるじゃないですか!
好きだから・・・・モヤモヤとグルグルいらないことばっかり考えちゃうんです。
ああ・・・・・うーん。
- ドアがガチャリと開く音。
- 男
- あ・・・・ただいま。
- 女
- おかえりなさい・・・・休日出勤、疲れたでしょう、今日ハンバーグ・・・
- 男
- (遮るように慌てて)ありがとう・・・・でも、また今から出かけなくちゃいけなくて。
- 女
- えっ、今から?
- 男
- う、うん・・・・ちょっと仕事に必要な資料を忘れちゃって。
- 女
- え・・・・・その「紙袋」が?
- 男
- そ、そうだよ・・・・(手に持って)じゃあ、今日は遅くなりそうだから・・・
- 女
- (遮るように)てっきり・・・・洋服とか、化粧品とか入ってるから、
プレゼントかと思ったのに・・・・・。
- 男
- えっ・・・・。
- 女
- 私に・・・・・じゃ、ないよね・・・・サイズとか違うし。
- 男
- えーと・・・・あのね。
- 女
- もういいの・・・・ここにも来ないから。
- 男
- ちょっと待って!?
- 女
- 言い訳とか、聞きたくないから。
- 男
- 言い訳させて!
- 女
- え?
- 男
- これ・・・・・オレのなんだ。
- 女
- え・・・・・・えっ?
- 男
- この服だって、いくらなんでもちょっと大きいでしょ。
- 女
- え・・・・・?
- 男
- 分かってくれるかな・・・・・浮気じゃないから。
- 女
- えーと・・・・・どういうこと・・・・まさか、女装の方ってこと?
浮気じゃないのは嬉しいんだけど・・・・・でも・・・・。
- 男
- (慌てて)いや、あの・・・・・実は、初舞台に出ることになって!
- 女
- 舞台って・・・・ますます本格的な方に・・・・。
- 男
- ああ、そうじゃなくって・・・・・オレ、役者で出るんだよ!
- 女
- え?
- 男
- 実は・・・・舞台役者に憧れてて、恥ずかしくって言えなかったんだけど。
小さな劇団なんだけど、入団して・・・・今度初舞台なんだ。
- 女
- そうだったの?
- 男
- うん・・・・・ずっと役とかもらえなかったんだけど、
急に女優さんが怪我して降板して・・・・誰も変わりの人見つからなくて・・・・
で、オレが出ることに。
男なのに・・・女の役って・・・・言いづらくって。
でも、ずっと出てみたかったから・・・・稽古頑張ったりして、
遅かったりデート出来なかったり・・・・・
心配かけたり疑われるようなことしてごめん。
- 女
- ・・・・・・・・・。
- 男
- っていうか・・・・・女の役を、頑張ってるオレのこと・・・・嫌いになった?
- 女
- 全然。
- 男
- 良かった・・・・・・でも、どうして?
- 女
- だって、好きなことのために頑張ってるんだもん、好きな人が。
嫌いになる理由なんて、ないもん。
- 男
- ありがとう・・・・。
- 女
- じゃあ、お稽古頑張って・・・・・帰ったら、また稽古に付き合うから。
- 男
- え?
- 女
- 女優さんよりも素敵な「女性役」になるようビシバシ稽古つけるから。
- 男
- うん・・・まいったなあ。
- 2人思わず笑い合う。
- 終わり