- 女
- ある日、レンタルビデオ屋にDVDを借りにいった時のこと。
店頭に置いてるガチャガチャに目がいった。
奇妙だったのはそれが一体何のガチャガチャなのか、ポップには一切書かれてなかったということ。
私は興味本位でコインを入れて回してみた。
- がちゃりとカプセルが出てくる音がする。
- 女
- 出てきたカプセルには小さい男が入っていた。
- 男
- (カプセル越しなので声がくぐもっている)助けてください!
- 女
- ・・・小人さん?
- 男
- 違います。ちゃんとした人間です!変な薬を飲まされてそれで・・・
とにかくお願いです。助けてください。
- 女
- なぜあのとき、私は彼の願いを聞き入れてあげなかったのだろう。
私の中にある一番残酷な部分が急に顔を出したようだった。
私は家へ帰るとカプセルに小さな穴を開けた。そこへポテトチップスのかけらを入れてやる。
- 男
- どうしてカプセルを開けてくれないんですか?
- 女
- ん・・・なんでだろう。お腹すいてないの?食べなよ。
- 男
- 僕はペットでも虫でもありません。
- 女
- うん。知ってる。
- 男
- 僕のこと、どうするつもりですか?
- 女
- わかんない。
- 男
- このまま一生、僕をここに閉じ込めておくつもりですか?
- 女
- わかんない。
- 男
- お願いです。開けてください。
- 女
- それよりさ、小さくなった経緯教えてよ。変な薬とか言ってたよね?
- 男
- ・・・教えたら出してくれますか?
- 女
- わかんないけど、とりあえず私は知りたいかな。
- 男
- ・・・大学病院のバイトだったんです。
病院側が用意した部屋で一週間、試験段階の薬を飲み続けるっていう・・・
何の薬かは全く知らされてませんでした。もちろん不安ではあったんですが、
でも僕、あの時どうしてもお金が必要で背に腹は変えられない感じで・・・
何もない部屋だったので最初は気がつかなかったんですけど、
ある日、部屋が広がってるような気がして・・・
でも部屋が広がってるんじゃなくて、自分が小さくなってるって気がついた時にはもう遅かったです。
最終的にはマウス用のカゴに入れられて・・・その後のことは覚えてません。
- 女
- その日から私と小さい男の共同生活が始まった。
- 女
- 出してほしかったら、必ず私が仕事へ出かける時は「行ってらっしゃい」って言って。
私が仕事から帰ってきたら必ず「おかえりなさい」と言って。
- 男
- 「いってらっしゃい」
- 女
- 「いってきます」
- 男
- 「お帰りなさい」
- 女
- 「ただいま」
- 女
- そんな日々が一ヶ月続いた。
男も私も気がついていたが、男はいまだに小さくなり続けているようだった。
声もどんどん小さくなっていく。
ある日、家へ帰ると、「ただいま」といっても返事がない。カプセルは空っぽになっていた。
- 女
- 男は綺麗さっぱり消えてしまったのだろうか。それとも小さすぎて私には見えないだけだだろうか。
今でも私はカプセルを開けていない。
今後、開けるつもりも一切、ない。
- 終わり