男がゴミ袋を片手に、◯◯◯と向き合っている。
すまない。本当にすまない
◯◯◯
いいのよ。はじめから分かってたことだから
君は何も悪くない・・その、感謝してるよ
◯◯◯
ええ。楽しかったわ
この夏の君との想い出は決して忘れないよ。
いつだって君は家で文句も言わずに僕を待っていてくれたね
◯◯◯
帰ったらあなたは一番に私のところにとんで来てくれた。嬉しかったわ
だって君が毎日優しく出迎えてくれるから
◯◯◯
それはあなたが私を必要としているのが分かったから
でも、もうそれも・・
◯◯◯
いいの。分かってるわ
すまない
◯◯◯
・・そのゴミ袋に私を詰め込むのね。そうでしょ?
ああ。そのために今から君をバラバラにしなくちゃいけない
◯◯◯
まるであなたの書くミステリー小説のようにね
よく知ってるね。僕の書いてる小説の内容なんて
◯◯◯
だってあなた、お仕事をするときはいつも私の傍にいたもの
そうだった
◯◯◯
あなた、髪に葉っぱが
え?ああ、ゴミ袋を買いに行くのに銀杏並木を通ったんだ。ほら、そこの窓から見えるだろ
◯◯◯
すっかり銀杏の葉も黄色くなってしまったわね
つい最近まで蝉が鳴いてた気がするのにな
◯◯◯
よく、夕暮れの蝉の鳴き声を BGMに、あなたの洗い立ての髪を乾かしてあげたわね
これからは自分で乾かさなきゃいけないな
◯◯◯
出来るの?私がいないといつもほったらかしじゃない
出来る気はあんまりしないけど
◯◯◯
風邪引かないでね
君ってひとは・・最後まで優しいんだな
◯◯◯
わざとよ。別れが辛くなるように
君には叶わないな。こんな時に、さらっと涼しくそんなことを言えるなんて
◯◯◯
そういう性分なの
辛いよ。本当に
◯◯◯
最後にその言葉が聞けただけで充分よ
じゃあ・・いいかい?
◯◯◯
待って
なに?
◯◯◯
また、逢えるかしら
ああ、またきっと・・来年の夏に
掃除機をかける音がする。
ちょっとあなた。早くそれ、片付けちゃってよ
え?
だから、扇風機!たたんで埃被らないようにゴミ袋に入れて、
納戸に持っていってって言ったでしょ
はいはいっと
はい、は一回でいいの
優しくないなぁ
なんか言った?
いいや
ねぇ。新作、書けたの?
いや、でも構想は出来てるよ。バラバラ殺人事件。夏の終わりに愛するひとを殺してしまうんだ
ふーん。夏の終わりってもう秋じゃない
まぁそうなんだけどさ
また一番に読ませてね
はいは・・へっくしょい
あ!ちょっと風邪?やだもう、うつさないでよ
風邪じゃないよ。季節の変わり目だから・・って聞いてないし
女は既に掃除機がけに戻っている。
・・さてと、愛するひとのために扇風機を片付けるとしますかね」
END