- 蝉の鳴く声が聞こえる中、風鈴がチリンチリンと音を立てる。
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- 男
- (団扇を仰ぎながら)・・・暑いなあ。
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- 少女
- ・・・・・ただいま。
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- 男
- おかえり、ちーちゃん・・・・今日も、学校行ってたの?
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- 少女
- うん、かんさつ日記つけてるから。
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- 男
- へえ・・・・子供の時、やったなあ。
ちょっと、見せてもらっていい。
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- 少女
- うん。
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- 男
- どれどれ(ページをめくって)・・・・あれ、黄色い花が書いてる。
アサガオって・・・・・ピンクとか紫とかあんな感じの色だよな、確か。
えーと、ちーちゃん・・・・・・何の花なのかな?
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- 少女
- これ。
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- 少女、手に持った袋からガサゴソと取り出す。
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- 男
- ああ、ゴーヤ。へえ、今どきの観察日記って渋いなあ。
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- 少女
- それで、今日はゴーヤを食べてその感想を書くの・・・・・。
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- 男
- へえ、育てて食べるとこまでね・・・・・なるほど。
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- 少女
- ・・・・・・。
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- 男
- どうしたの・・・・元気ないね。
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- 少女
- ゴーヤって・・・・苦いんでしょう?
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- 男
- そんな食べたことないけど・・・・・どっちかと言えば苦いかな。
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- 少女
- ピーマンと・・・・どっちが苦いの?
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- 男
- うーん・・・・・どっちかというとゴーヤかなあ。
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- 少女
- どうしよう・・・・・食べれるかなあ。
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- 男
- そんな無理しなくても・・・苦いのは僕も苦手だし。
いや、でも子供に好き嫌いを容認するのは良くないよなあ・・・・・でもなあ。
とりあえず、ちょっと食べてみて・・・・どうしても無理だったら・・・・・。
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- 少女
- (遮るように)だって、食べるって約束したもん!
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- 男
- え?
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- 少女
- ますやま先生に、ゴーヤを食べて感想を書いてねって言われたの。
かんさつ日記はゴーヤを食べないと終わらないから・・・・でも、苦いんだよね・・・・・。
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- ドアが開く音。
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- 女
- ただいま・・・・今日、暑いからソーメンがいいかしら。
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- 少女
- お母さん・・・・・これ。
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- 女
- あら、ゴーヤ。
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- 少女
- ゴーヤを食べて、かんさつ日記に感想を書かないといけなくて・・・。
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- 女
- わあ、面白いじゃない・・・・いいわね。
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- 男
- いや・・・・でも、ソーメンの予定なんだよね?
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- 女
- 大丈夫よ、ソーメンもゴーヤも食べれるメニューができるから、丁度いいわ。
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- 少女
- ゴーヤって・・・・・苦いんでしょう?
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- 男
- 甘くなったりは・・・・・しないんだよね?
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- 女
- そうね・・・・甘いのは無理だけど、苦くないゴーヤのご飯作るわよ。
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- 少女
- ・・・・・ピーマンより?
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- 女
- 大丈夫よ・・・・・ちーちゃんが美味しく食べれるようにするからね。
勿論、あなたもね。
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- 男
- え、バレてた・・・・でも、どうやって・・・・あれ、結構苦いよね。
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- 女
- そうね・・・・でも、ちょっとした魔法を使うから、大丈夫。
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- 男
- そんなこと出来るのかなあ・・・・。
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- トントンと包丁で切る音、フライパンで焼く音が聞こえてくる。
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- 女
- 出来たわよー。
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- 2人
- はーい。
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- 女
- ゴーヤのソーメンチャンプルにしてみました。
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- 男
- なるほど・・・・ソーメンもゴーヤも食べれるメニューだね。
(やや緊張しながら)では、いただきます。
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- 少女
- ・・・・・いただきます。
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- 2人
- ・・・・・・・・。
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- 男
- ちーちゃん、2人で、せーので食べよう。
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- 少女
- うん・・・・・せーの。
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- 2人
- ・・・・・・美味しい!?
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- 少女
- ピーマンより全然苦くない!
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- 男
- 本当だ・・・・・君って本当に魔法使いなの?
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- 女
- うふふ、知らなかった?
うすーくスライスして、塩もみして片栗粉をまぶして茹でたら・・・あら不思議、苦味が何処かへ消えちゃうのよ。誰でも使えちゃう魔法。
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- 男
- 確かに魔法だ・・・ちーちゃん、沢山食べてるね。
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- 少女
- うん、いっぱいゴーヤ食べて大きくなるの。
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- 男
- え・・・・(小声で)そういう効果あるの?
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- 女
- 夏バテ防止は聞いたことあるけど。
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- 少女
- ますやま先生が、ゴーヤを食べたらゴーヤのつるみたいにどんどん身長が伸びるって言ってたの。
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- 男
- そう聞いたら説得力あるね・・・・確かに。
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- 女
- (少し笑いながら)あの、先生らしいわね。
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- 少女
- おかわり!
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- 男
- 僕も。
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- 女
- はいはい。
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- 笑いながら囲む食卓の向こうでチリンチリンと風と共に風鈴の音が聞こえてくる。
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- おわり。