- ざわざわとした賑やかな音が聞こえてくる。
- 店員
- いらっしゃいませ・・・お一人ですか?
- 少女
- はい。
- 店員
- お好きな席へどうぞ。
- 少女
- ありがとう、クリームソーダ下さい。
- 店員
- かしこまりました。
- 少女、ちょこんと席に座る。
ブクブクボコボコ・・・・席の横に張り巡らされたガラスの向こうで様々な魚が泳いでいる。
ゆっくりとジンベイザメが近づいてくる。
- 甚平
- やあ・・・今週も来たね。
- 少女
- えっ・・・・私のことわかるの?
- 甚平
- 勿論さ・・・・週に一回は必ずきているから。
そこに座って見る人は、観光客やたまに訪れる人達ばかりだからね。
- 少女
- 私・・・最初は正面で、大勢の人達の中であなたを観ていたの。
でも、皆があなたを観たがっているから、一番前で観ていると邪魔でしょう?だから、ここに来たの、気にせずあなたのこと見つめることが出来るから。
- 甚平
- そう・・・・僕も君のことよく見えるから、ちょうどいいね。
- 少女と甚平、静かに笑う。
- 店員
- お待たせいたしました。
- 少女
- ありがとう。
- 甚平
- いつも、それ頼んでるね・・・・なんていう食べ物・・・・?
- 少女
- クリームソーダよ・・・・・食べ物というより飲み物かしら。
ううん・・・・違うわ、両方ね。
- 甚平
- どれが食べ物だい?
- 少女
- 白くて丸っこいのがアイスクリームよ。冷たくて甘いの。
- 甚平
- ふーん、その赤いのは・・・・大きいオキアミかい?
- 少女
- うふふ、違うわ・・・・サクランボよ。
でも、私は苦手なの・・・・赤々しすぎて、ぶよぶよしてるもの。
- 甚平
- そのブクブクしてるのは、飲み物ってやつかい?
- 少女
- ええ・・・・・ストローで飲むと口の中でシュワっと広がるの。
- 甚平
- 色が海の色に似ているけど、海水じゃないんだね。
- 少女
- そうね、似てるけど違うわ・・・うふふ。
- 甚平
- ねえ・・・・聞いてもいいかい?
- 少女
- なあに?
- 甚平
- こんなに沢山の魚たちがいるのに、君は僕ばかり観ているの?
- 少女
- そうね・・・・・よく分からないわ。
ただ・・・・あなたを観ていると・・・あの人に似ているなって。
- 甚平
- どんな人なんだい・・・・・随分大きい人なのかい、僕ぐらい?
- 少女
- 背は高いけど、そこまでは大きくないわ・・・・・そうね、あなたの模様が似ているわね。
- 甚平
- ん?
- 少女
- ほら、あなたの全体にある模様みたいな服をいつも着ているのよ、その人。
- 甚平
- ああ・・・・・聞いたことがあるぞ・・・・
「ジンベイ」っていう昔からある服と僕の模様が似ているらしいね。
- 少女
- あら、よく知ってるのね。
- 甚平
- 僕達の名前は、そこから付けられたんだってね。
この間、沢山の子供達を引き連れてきた先生が、そう説明していたのを聞いたんだ。
でも、ここにはそんな服を着た人は見かけないなあ・・・・・
本当に着ている人っていたんだね。
- 少女
- そうね・・・・・ここに来る人達は、オシャレしてくる人が多いから、いないかな。
- 甚平
- あはは・・・・・心外だなあ、僕の模様はオシャレじゃないみたいじゃないか。
- 少女
- ごめんなさい、そういうことじゃないのよ。
- 甚平
- じゃあ、今度その好きな人を連れてきてよ・・・・「ジンベイ」を着たその人と。
- 少女
- うん・・・。
- 甚平
- あ・・・・・飼育係さんが呼んでいる・・・・みんな待ってるみたいだから、行ってくるよ・・・・またね。
- 少女
- またね・・・・・。
- ボコボコ・・・・・ジンベイザメは泳いでいってしまう。
- 少女
- (大きな溜息を付いて)・・・・・・・。
- 青年
- やあ。
- 少女
- あ・・・・・・。
- 青年
- ここにいるって聞いて、探しに来た。
- 少女
- そう・・・・ありがとう。
- 青年
- あの時はごめん・・・あの・・・。
- 少女
- (遮るように)もういいよ・・・・・座って。
- 青年
- うん。
- 少女
- 一緒に甚平さんみよう・・・・・きっと彼も、あなたのこと喜ぶわ。
- 青年
- え?
- 少女
- 甚平を着たあなたのこと、喜ぶよ。
- 青年
- え、そうなの?
- 少女
- なんでもない・・・・。
- 少女、思わず少し笑ってしまう。
つられて青年も笑う。
2人、話しながら水槽を眺める。
- 終わり