AN
「三分間。三分間で席替えとなりますので、お時間になりましたら、
男性が右の席に移動してください。それでは、始めてください。」
…ど、どうも
はじめまして
ぼ、ぼく、こういうの初めてなもんで
私もです
三分で席替えらしいので
ええ
ちょっと、想像してみていいですか?
え?
あなたとの未来を、勝手に想像してみていいですか?
え、それは、勝手に?一人で?無言で?
勝手に、一人で、無言で…
そんな、勝手に、一人で、無言で想像されるなんて、あたし…
そ、そうですよねやっぱりやめておき――
それなら、ご一緒させて?
えっ?
ご一緒に想像させて?想像、させてみせて?
(嬉しくなり)…そっ、それなら、僕から!想像してみますね!
ええ!
ぼくは、このあとのフリータイムで、あなたに連絡先を渡します!
じゃあわたしは、明日、いや、明後日あなたにメールを送るわ!文字だけのそっけないヤツよ!
ええ?!
私は、あなたに興味が無いフリをするの!
いじわるだなあ…!ぼ、ぼくは自信を無くしてしまうよ…
いきなりそんなのダメよ!
どうせぼくはダメなんだ…次の返信でサヨナラしよう…
わかったわよ、次のメールは、絵文字を使うわ!
…知ってるんだ、女性はその気がなくても絵文字を使うって
ハートをたくさん使うわ!
(即座に)ぼくは君を食事に誘うよ!
ちょろいわね…
食事は、そうだな…焼肉なんてどうだい?!
う、うーん、もう少し軽いものがいいかなー?
じゃあ、ホルモン焼!
それ軽くなったって言える?!ていうか別物?!焼肉とホルモンが別物かどうかの議論は――
どうせぼくはダメなんだ、次の返信でサヨナラ――
うーん、もっとヘルシーなのがいいかなー?
ヘルシー…そ、それなら…茶そば!
茶そば?!
茶そ、ば…ご、ごめん初デートで茶そばなんてシラけるよね…
わたし茶そば大好きなの!
ほ、ほんと?!ぼくも大好きなんだ!
…こうして、あたしたちのデートはお蕎麦屋さんめぐりになるのね?
そう。休日は車で、隣町に、山奥に、ドライブがてら、食べに行くんだ
わたしはいつも、あなたのぶんのお箸もとってあげるの
ぼくは、コップの水が減ったら注いであげるよ
それもわたしがやるわよお
いいんだよ、ぼくがやる
はい、わさび
え?
お蕎麦が半分くらいになったら、わさびを溶かすんでしょ?
よく覚えてるね
もう何回目だと思ってるのよ
結婚しても、週末は必ず食べに行こうね
お仕事大変なんだから、週末くらいゆっくり休んで良いのよ?
週末のお蕎麦があるから、僕は頑張れるんだよ
それなら、約束ね?
あ、でも、子供ができたら…
毎週食べに行くのは、ちょっと大変かもね…
そうなったら、パパがお蕎麦の作り方を勉強して、毎週おうちで作ってあげるさ!
あらあら(赤ちゃんに)頼もしいパパでちゅねえ?
何だったらそのまま脱サラしてお蕎麦屋さんにでも――
それは絶対にやめて!(と言って、笑う)
(笑う)
…子供が大きくなったら、あなた?
ああ
付き合ったばかりのときみたいに
また二人で、遠くまで、茶そばを食べに
AN
「では三分経ちましたので、席替えを行ってください」
時間が流れて、やがて、フリートークの時間がやってくる。
あ、あの、これ…ぼ、ぼくの連絡先です…よ、良かったら――
はい…ありがとうございます
おしまい。