- AN
- 「三分間。三分間で席替えとなりますので、お時間になりましたら、
男性が右の席に移動してください。それでは、始めてください。」
- 男
- …ど、どうも
- 女
- はじめまして
- 男
- ぼ、ぼく、こういうの初めてなもんで
- 女
- 私もです
- 男
- 三分で席替えらしいので
- 女
- ええ
- 男
- ちょっと、想像してみていいですか?
- 女
- え?
- 男
- あなたとの未来を、勝手に想像してみていいですか?
- 女
- え、それは、勝手に?一人で?無言で?
- 男
- 勝手に、一人で、無言で…
- 女
- そんな、勝手に、一人で、無言で想像されるなんて、あたし…
- 男
- そ、そうですよねやっぱりやめておき――
- 女
- それなら、ご一緒させて?
- 男
- えっ?
- 女
- ご一緒に想像させて?想像、させてみせて?
- 男
- (嬉しくなり)…そっ、それなら、僕から!想像してみますね!
- 女
- ええ!
- 男
- ぼくは、このあとのフリータイムで、あなたに連絡先を渡します!
- 女
- じゃあわたしは、明日、いや、明後日あなたにメールを送るわ!文字だけのそっけないヤツよ!
- 男
- ええ?!
- 女
- 私は、あなたに興味が無いフリをするの!
- 男
- いじわるだなあ…!ぼ、ぼくは自信を無くしてしまうよ…
- 女
- いきなりそんなのダメよ!
- 男
- どうせぼくはダメなんだ…次の返信でサヨナラしよう…
- 女
- わかったわよ、次のメールは、絵文字を使うわ!
- 男
- …知ってるんだ、女性はその気がなくても絵文字を使うって
- 女
- ハートをたくさん使うわ!
- 男
- (即座に)ぼくは君を食事に誘うよ!
- 女
- ちょろいわね…
- 男
- 食事は、そうだな…焼肉なんてどうだい?!
- 女
- う、うーん、もう少し軽いものがいいかなー?
- 男
- じゃあ、ホルモン焼!
- 女
- それ軽くなったって言える?!ていうか別物?!焼肉とホルモンが別物かどうかの議論は――
- 男
- どうせぼくはダメなんだ、次の返信でサヨナラ――
- 女
- うーん、もっとヘルシーなのがいいかなー?
- 男
- ヘルシー…そ、それなら…茶そば!
- 女
- 茶そば?!
- 男
- 茶そ、ば…ご、ごめん初デートで茶そばなんてシラけるよね…
- 女
- わたし茶そば大好きなの!
- 男
- ほ、ほんと?!ぼくも大好きなんだ!
- 女
- …こうして、あたしたちのデートはお蕎麦屋さんめぐりになるのね?
- 男
- そう。休日は車で、隣町に、山奥に、ドライブがてら、食べに行くんだ
- 女
- わたしはいつも、あなたのぶんのお箸もとってあげるの
- 男
- ぼくは、コップの水が減ったら注いであげるよ
- 女
- それもわたしがやるわよお
- 男
- いいんだよ、ぼくがやる
- 女
- はい、わさび
- 男
- え?
- 女
- お蕎麦が半分くらいになったら、わさびを溶かすんでしょ?
- 男
- よく覚えてるね
- 女
- もう何回目だと思ってるのよ
- 男
- 結婚しても、週末は必ず食べに行こうね
- 女
- お仕事大変なんだから、週末くらいゆっくり休んで良いのよ?
- 男
- 週末のお蕎麦があるから、僕は頑張れるんだよ
- 女
- それなら、約束ね?
- 男
- あ、でも、子供ができたら…
- 女
- 毎週食べに行くのは、ちょっと大変かもね…
- 男
- そうなったら、パパがお蕎麦の作り方を勉強して、毎週おうちで作ってあげるさ!
- 女
- あらあら(赤ちゃんに)頼もしいパパでちゅねえ?
- 男
- 何だったらそのまま脱サラしてお蕎麦屋さんにでも――
- 女
- それは絶対にやめて!(と言って、笑う)
- 男
- (笑う)
- 女
- …子供が大きくなったら、あなた?
- 男
- ああ
- 女
- 付き合ったばかりのときみたいに
- 男
- また二人で、遠くまで、茶そばを食べに
- AN
- 「では三分経ちましたので、席替えを行ってください」
- 時間が流れて、やがて、フリートークの時間がやってくる。
- 男
- あ、あの、これ…ぼ、ぼくの連絡先です…よ、良かったら――
- 女
- はい…ありがとうございます
- おしまい。