- 飛行機内。
ごぉぉぉぉっと飛行機のエンジン音が響いている。
- 女
- (カタコトで)おかしいですね。
- 男
- え?
- 女
- 到着時間が1時間も遅れてます。それなのにアナウンスもないし・・・
- 男
- そういえばそうですね、気が付きませんでした。
- 間
- 女
- 日本の方ですか?
- 男
- ええ。
- 女
- 私、ルーシーと言います。
- 男
- あ、林です。どうも。
- 女
- 日本にお帰りですか?
- 男
- はい。ニューヨークに仕事に行ってまして、その帰りです。
- 女
- そうですか。
- 男
- 日本語、お上手ですね。
- 女
- 本当ですか。ありがとうございます。私はアッパーイーストで日本文化で働いているのです。
- 男
- ああ。だからですね。
- 女
- でも日本語ばかり喋っていて、逆に英語がカタコトです。困った。困った。
明日東京でシンポジウムがあるんです。その参加です。でもシンポジウムは退屈です。
それよりそのあと友達と行く歌舞伎が楽しみです。私、歌舞伎がとても好きです。
歌舞伎の人たちをニューヨークに呼んだりもしてます。
- 男
- それは凄いですね。
- 女
- 私は凄くないです。凄いのは歌舞伎です。
ところでニューヨークはどうでしたか?観光たくさんしましたか?
- 男
- それが忙しくて全然できなくて。唯一行ったのが、あそこですね。
- 女
- 待ってください。私当てます。Moma?
- 男
- 違います。
- 女
- Met?
- 男
- 違います。
- 女
- Oh! Broadway! that it?
- 男
- ノー。あそこです。最近建て替えられた・・・
- 女
- Ah…ミナマデイワンデヨロシイ。
- 男
- すごい日本語知ってますね。
- 女
- 大きかったでしょう?
- 男
- はい。上を見上げると空に吸い込まれるような、そんな感じになります。
- 女
- I know I know….
- 男
- あそこまで高いともはや人の力を超えているというか。
- 女
- 色んなことが人の力を超えています。本当にたくさんたくさん。
でも一度限界が超えるともう後には戻れないんです。
あれを立て直したのは私たちではありません。もっと別の「何か」です・・・Oh!!思い出した。後には戻れないで思い出した。あなた、ウォッシュレット知ってますか?
- 男
- え?トイレの?
- 女
- そうです。あれはどこで買えますか。
私、仕事場のウォッシュレットでオシリがカイハツされてしまって、
もはやあれなしではいられないのです。
ウォッシュレットの文化、アメリカにも絶対必要です。
- 男
- たぶん電気屋に行けば買えますよ。
- 女
- あなた、ウォッシュレットなしの生活、耐えられますか?無理でしょう?ね?
- 男
- えっと、はい。
- 女
- でしょう?一度、ウォッシュレット当たり前と思ったらそれまでです。
それは他のこととも一緒です。いいですか。当たり前、それ、とってもとっても怖いこと。You understan?
- 男
- あー・・・イエェス。アイアンダースタン。
- 女
- Good boy…..Good boy…
- エンジン音が大きくなる。
- 終わり。