- 花粉症の女性が電車で鼻をすすっている。くしゃみをする。
- 女
- あーつらい。今年はなかなかおさまらないわね
- 向かいの席でも初老の男が鼻を一生懸命すすっている。男は沢山の花を抱えている。
- 女
- あのぉ、ティッシュ使われますか?
- 男
- あ、これはどうも
- 女
- つらいですよね
- 男
- ええ本当に
- 女
- お花屋さんですか
- 男
- え、ああこれは
- 女
- そのお花。すごい量ですね。お花屋さんなのに花粉症だなんて大変
- 男
- すみません。車内に花粉をまき散らしてしまって
- 女
- いえ、そんな
- 男
- 花屋じゃないんです
- 女
- え、じゃあそれ
- 男
- これ、実は新種の・・
- 女
- え?
- 男
- へ、へ、へっくしょーい!!
- ポンという音がして男の頭に花が咲く。
- 男
- おや、失敬
- 女
- い、い、い、今、頭から、は、花が・・
- 男
- あ、やっぱりご存知ない?新種の花粉症なんだそうです
- 女
- 体から花がはえるのが?!
- 男
- はっくしょい!はっくしょい!!はっくしょい!!!
- ポン、ポン、ポンと体のあっちこっちに花が咲く。
- 男
- いやー、花粉が体に溜まって花粉症になるっていうじゃないですか
- 女
- え、ええ
- 男
- で、溜まり溜まるとこうなることが稀にあるそうなんです
- 女
- そんなの・・聞いたことないです
- 男
- 最近、流行り出したそうで。病名はなんだったけかな。ハナサカなんとかかんとか・・
難しくて忘れちゃいましたけど。もー困っちゃいますよ。堂々巡りでね。
花粉がとぶと花が咲く、花が咲くと花粉がとぶ。なんですかね。花も必死なんですかね
- 女
- 花が・・ですか?
- 男
- 最近じゃ、どこみてもコンクリートの舗装された道。
ま、確かに歩きやすくて人間にとっては便利ですけどね。
花にとったら都会で生き残るために花粉とばして必死なわけですよ・・はーっくしょーい!!
- 大きな花がポンっと咲く。
- 男
- あーまたこりゃでっかいのが咲いちゃったなぁ。今日は黄色の花だ
- 女
- 日に寄って違うんですか?
- 男
- お医者さんによるとね、花の色はその日の気分を現してるんだそうです。
今日はこれから小さな孫に合うんでね。喜びの黄色だ
- 女
- 気分を・・
- 男
- これ、孫が面白がってきゃっきゃと笑うんですよ。
まぁくしゃみが止まらないのは大変ですが、時々治らなくてもいいかななんてね
- 電車が止まる。
- 男
- あ、では私はここで。花粉症、お大事に
- 女
- あ、はい。あの、おじいさんも
- 男はくしゃみをしながら、しかし楽しそうに去って行く。
- 女
- 私だったら何色の花が咲くのかしら・・・は、は、はっくしょーい!
- ポンっと音がする。
- 女
- え?
- END