下村
うまく酔っぱらうのが不得意だ。愛想よく笑うのも苦手だ。
仕事はそこそこしかできない。
それでも、なんとかここまで社会人をやって来れたのは、
はっきり言って、私が美人だからだ
部長
下村君
下村
はい、部長
部長
午後の営業、一緒にきてくれるかな?
下村
午後は、資料編纂がありまして・・・
部長
いいよ、いいよ、そんなの!他の女子社員にやらせとけば
下村
はあ
部長
先方さんがね、どうしても君に会いたいそうなんだ。
そのあと接待もあるから!何か食べたいものある?
下村
いえ、特に・・・
部長
遠慮せずにいいたまえよ!
下村
寿司、ですかね
部長
シースー、いっとこう!
下村
OL仲間には嫌われている。私ばかりちやほやされて、
雑務ばかり押し付けられるからだ。特に、お局様にはにらまれている
お局様
アタシは聞いてないわよ
下村
 はあ、しかし・・・
お局様
しかしもカカシもありますか。残業すればいいでしょ?
下村
 接待にも同伴するみたいで
お局様
分っかりました。女子社員チームみんなでアータの分、補填します。
アータが接待で寿司食べてる同じ頃、アタクシたち、
枝豆とさつま揚げで女子会しますから!
下村
女子会に呼ばれたことは一度もない。
なぜなら、私の話題で盛り上がるからだ。
アフターファイブはいつも、男子社員のお誘いか、接待だ
先方
ほんなら、下村さんについでもらおうかな
下村
はい。失礼します
先方
おっとっとと。おおきにおおきに。いやあ、上品やわ。
新地にもおらへんで、こんな子。
下村
はあ
先方
はい。ご返杯
下村
私、アルコールが苦手で
先方
ええわ。その可憐さ。
ところで、彼氏いる?
下村
彼氏はいなかった。面白半分の告白はしょっちゅうあるけれど、
心のこもった愛の言葉なんてきいたことがない。
恋人は欲しい。結婚もしたい。
たぶん、愛想の悪さは、私が美人だからだ
母親
お帰り
下村
ただいま、ママ
母親
遅いじゃないの。どこいってたの?
下村
ちょっと、でかけてた
母親
ふうん
下村
もう、寝るね
母親
何か落ちたよ
下村
あ、捨てといて
母親
あんた、たまにはママと一緒にご飯たべなさいよ
下村
おやすみなさい
下村
ママは、本当の母親じゃない。私は養子だ。
その証拠に、親子で似ても似つかない顔をしている。
私が美人なのにこんな性格なのも、結婚できないのも、
みんなママのせいだと思う。
扉を開ける音。
母親
ちょっと、よう子!さっきのレシート、なんなんだい、この金額は!
お寿司にこんなお金使って、あんた一体何様のつもりなんだい!
下村
接待よ
母親
接待?なにいってんの。
毎日毎日なんにもせずにぶらぶらして。
ちょっとは自分の顔、鏡で見なさい!
下村
もうすぐ、私は家を出て、会社も辞めて、幸せな結婚をする。
だって、私はとっても美人だから
(了)