- 下村
- うまく酔っぱらうのが不得意だ。愛想よく笑うのも苦手だ。
仕事はそこそこしかできない。
それでも、なんとかここまで社会人をやって来れたのは、
はっきり言って、私が美人だからだ
- *
- 部長
- 下村君
- 下村
- はい、部長
- 部長
- 午後の営業、一緒にきてくれるかな?
- 下村
- 午後は、資料編纂がありまして・・・
- 部長
- いいよ、いいよ、そんなの!他の女子社員にやらせとけば
- 下村
- はあ
- 部長
- 先方さんがね、どうしても君に会いたいそうなんだ。
そのあと接待もあるから!何か食べたいものある?
- 下村
- いえ、特に・・・
- 部長
- 遠慮せずにいいたまえよ!
- 下村
- 寿司、ですかね
- 部長
- シースー、いっとこう!
- *
- 下村
- OL仲間には嫌われている。私ばかりちやほやされて、
雑務ばかり押し付けられるからだ。特に、お局様にはにらまれている
- *
- お局様
- アタシは聞いてないわよ
- 下村
- はあ、しかし・・・
- お局様
- しかしもカカシもありますか。残業すればいいでしょ?
- 下村
- 接待にも同伴するみたいで
- お局様
- 分っかりました。女子社員チームみんなでアータの分、補填します。
アータが接待で寿司食べてる同じ頃、アタクシたち、
枝豆とさつま揚げで女子会しますから!
- *
- 下村
- 女子会に呼ばれたことは一度もない。
なぜなら、私の話題で盛り上がるからだ。
アフターファイブはいつも、男子社員のお誘いか、接待だ
- *
- 先方
- ほんなら、下村さんについでもらおうかな
- 下村
- はい。失礼します
- 先方
- おっとっとと。おおきにおおきに。いやあ、上品やわ。
新地にもおらへんで、こんな子。
- 下村
- はあ
- 先方
- はい。ご返杯
- 下村
- 私、アルコールが苦手で
- 先方
- ええわ。その可憐さ。
ところで、彼氏いる?
- *
- 下村
- 彼氏はいなかった。面白半分の告白はしょっちゅうあるけれど、
心のこもった愛の言葉なんてきいたことがない。
恋人は欲しい。結婚もしたい。
たぶん、愛想の悪さは、私が美人だからだ
- *
- 母親
- お帰り
- 下村
- ただいま、ママ
- 母親
- 遅いじゃないの。どこいってたの?
- 下村
- ちょっと、でかけてた
- 母親
- ふうん
- 下村
- もう、寝るね
- 母親
- 何か落ちたよ
- 下村
- あ、捨てといて
- 母親
- あんた、たまにはママと一緒にご飯たべなさいよ
- 下村
- おやすみなさい
- *
- 下村
- ママは、本当の母親じゃない。私は養子だ。
その証拠に、親子で似ても似つかない顔をしている。
私が美人なのにこんな性格なのも、結婚できないのも、
みんなママのせいだと思う。
- *
- 扉を開ける音。
- 母親
- ちょっと、よう子!さっきのレシート、なんなんだい、この金額は!
お寿司にこんなお金使って、あんた一体何様のつもりなんだい!
- 下村
- 接待よ
- 母親
- 接待?なにいってんの。
毎日毎日なんにもせずにぶらぶらして。
ちょっとは自分の顔、鏡で見なさい!
- *
- 下村
- もうすぐ、私は家を出て、会社も辞めて、幸せな結婚をする。
だって、私はとっても美人だから
- (了)