- ビルの間を吹き抜けていく風の音。
ピチチチと、鳥がさえずりが聞こえる。
- 渡り鳥
- ビルばかりの町に、こんな大きな木なんてあったっけ?
去年の今頃には、なかったはずなのに・・・不思議だなあ。
- 葉っぱ
- ふふふ・・・・渡り鳥さん、これが大きな木に見える?
- 渡り鳥
- やあ、こんにちは・・・・勿論。
こんな立派な木なんて・・・この町じゃあ見たことないよ。
前から、君・・・というか、君たちは、ここにいたのかい?
でも、僕が道を間違えるなんて・・・おかしいなあ。
- 葉っぱ
- ふふふ・・・間違ってなんてないわ。
今年から、私たちはここにいるんですもの。
- 渡り鳥
- (驚いて)本当かい?
短い時間でこんなに育つとは・・・驚いたなあ。
- 葉っぱ
- 渡り鳥さん・・・実はね、「木」じゃないの、私たち。
- 渡り鳥
- え?え?どういうこと・・・・・木じゃなかったら、なんなんだい?
- 葉っぱ
- 私たちは、ただの「葉っぱ」なの。
- 渡り鳥
- ええっ・・・・葉っぱ達が、集まって大きな木のようになっているのかい?
- 葉っぱ
- そうねえ・・・少し違うかな。
私たちは、ビルに生い茂っているのよ。
- 渡り鳥
- ええっ・・・本当だ、もっとテッペンらへんは、普通に建物だ。
しかし、君たちは沢山ここに絡まっているのに、人間は君たちを刈ったり傷つけたりしないのかい?
- 葉っぱ
- その逆よ・・・むしろ、私たちをここに植えたのは人間たちなの。
- 渡り鳥
- 人間って、木を切ってばかりだと思ってたけど、面白いことをするもんだ。
- 葉っぱ
- 難しいことはよく分からないけれど、大きな街に緑を作るんだって。
私たちを、ここに植えてくれた人が、そう話してたわ。
- 渡り鳥
- 何を考えてるかよく分からないものだね・・・面白い土産話が出来たよ。
- 葉っぱ
- もう行ってしまうの?
- 渡り鳥
- ああ・・・・・もう少し飛んでおかないと嵐がやってきたら大変だからね。
- 葉っぱ
- そう・・・寂しいわ。
- 渡り鳥
- 君には、こんなに多くの仲間達がいるじゃないか。
- 葉っぱ
- それはそうなんだけど・・・・でも、何もお話してくれないの・・・。
- 渡り鳥
- 何故?
- 葉っぱ
- きっと・・・・わたしが皆と違うからだわ。
- 渡り鳥
- え?
- 葉っぱ
- わたしと周りを比べてみて・・・・皆は形が大きいでしょう?
茎もわたしのようにカサカサじゃないし、なめらかで立派・・・・そして、全体が鮮やかな色でツヤツヤと輝いてる。
- 渡り鳥
- 言われてみればそうだねえ・・・・・・・・まるで作られたみたいだ。
- 葉っぱ
- それに比べてわたしときたら、色は所々くすんでいるし、皆みたいに輝いていないもの・・・・。
- パタパタと羽ばたく音。
- 葉っぱ
- 渡り鳥さん、何をしているの・・・・みんなを引っ張るのはやめて!?
- 渡り鳥
- 驚かせて悪い・・・・残念ながら、彼らを引っ張って、ちぎれたとしても彼らは何も痛みを感じたりしないだろうね。
- 葉っぱ
- どういうことなの?
- 渡り鳥
- 残念ながら、彼らは君みたいに生きちゃいないのさ・・・作り物だ。
- 葉っぱ
- え・・・・・・。
- 渡り鳥
- 人間って・・・全くよく分からないもんだね。
街に緑を作るのに、作り物の葉っぱを植えるなんてさ。
そろそろ・・・行かなくちゃ。
- 葉っぱ
- ・・・・待って!
- 渡り鳥
- え?
- 葉っぱ
- 私も連れて行って!
- 渡り鳥
- でも・・・・・・・。
- 葉っぱ
- (遮るように)いいの・・・時が来れば私はここから離れて落ちてしまうわ。
でも、それまでずっと物言わぬ仲間の中にはいたくないの!
本当の仲間が多くいる所に連れて行って・・・。
- 渡り鳥
- うん・・・・一緒に行こう。
- パタパタと羽ばたいて、渡り鳥、葉っぱをくわえて茎から離す。
- 葉っぱ
- ありがとう。
- 渡り鳥
- じゃあ、これからは一緒だね・・・・君、名前は?
- 葉っぱ
- ないわ・・・ただの葉っぱだもの。
- 渡り鳥
- そうか・・・・じゃあ、僕が君に名前をあげる。
- 葉っぱ
- 本当?
- 渡り鳥
- うん・・・・君は本物だから・・・・「ミドリ」だ、どう?
- 葉っぱ
- いい名前!ありがとう・・・・えっと・・・・・。
- 渡り鳥
- 僕には名前がないんだ・・・・・僕にも名前をつけてくれないか、ミドリちゃん。
- 葉っぱ
- ええ・・・・勿論よ!ええっとね・・・・・。
- 渡り鳥と葉っぱ、楽しそうに空を飛んで行く。
きっと、南のもっと南の緑が生い茂る場所へと旅をするのだろう。
- おわり。