- 若い母親がベッドの傍らで小さな子どもにお話を語って聞かせている。
それを微笑ましく見ている若い父親の姿もある。
- 女
- こうして人魚は人間と同じ二本の足を得て、王子様と一緒にいつまでも幸せに暮らし・・寝ちゃったみたい
- 男
- この子もいつかお嫁にいく日がくるんだろうなぁ
- 女
- まだ、早いわよ
- 男
- いや、そうだけどさ。ろくでもない奴を連れて来ないか今から心配で心配で
- 女
- そんなんじゃこの先が思いやられるわね、パパ
- 男
- 今から想像するだけで泣けて来るよ
- 女
- でも本当に良かったわ。無事にすくすくと育ってくれてて
- 男
- そうだね。しかもとびきりの別嬪さんだ
- 女
- 綺麗な足もちゃんと二本あるしね
- 男
- 以前の君の魚のしっぽだって、なかなか悪くはなかった
- 女
- あら、まぁ
- 子どもを起こさないように小さく笑う二人。
- 女
- あ。そうそう、みてこれ
- 男
- ん?
- 女
- 足よ、足。今日買っちゃったの
- 妻は足元を夫に見せる。
- 男
- おいおい、これ以上増やしてどうするつもりだ?
- 女
- だってこのオレンジ色、こないだあなたが買ってくれた春物のスカートに似合うと思って
- 男
- もうタンスの中はいっぱいだよ
- 女
- 大丈夫。季節ごとに入れ替えるから
- 男
- この子が外にでるようになったらもっと増えるんだろうね
- 女
- いつかこの子とお揃いにするのが夢なのよ
- 男
- 言うと思った
- 女
- だって今迄は絶対にできなかったお洒落だもの
- 男
- はいはい、分かったよ。降参だ。気のすむまで買ったらいいよ。高いものでもないんだし
- 女
- あなたもお揃いにする?
- 男
- 花柄はやめてくれよ。会社で何言われるか
- 女
- でもこれを発明したひとは凄いわね
- 男
- 大袈裟だなぁ
- 女
- あなたはこういうものがある生活に慣れてるから、この素晴らしさが分からないんだわ。これ一枚で冬はちゃんとあったかくなるし、夏は汗を吸い取ってくれるし、
まるで魔法のよう
- 男
- 君の手にかかると、当たり前のものがなんでも凄いものに見えて来るから不思議だ
- 女
- わたしにとっては毎日が驚きの連続だし、特別なものだもの
- 男
- で、新しいそれの履き心地は?
- 女
- なかなかいいわよ。去年買ったグリーンのといい勝負
- 男
- それはかなりの上位だね
- 女
- そうなのよ!
- 男
- しーっ!
- 女
- あ・・ごめん
- 慌てて口をおさえる妻。娘は寝入っている様子。
- 男
- さぁ、そろそろ寝るよ
- 女
- はぁい。ああ、それにしても、こんなに気持ちいいものが世の中にあるなんてね。
5本指ソックス
- END