なかなか寝付けない男が目を閉じ、一生懸命に羊の数を数えている。

男

羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が四匹、羊が五匹・・

羊飼い

ちょっと数えてる場合じゃないわよ！

男

え？

羊飼いらしき女が柵をこえた羊たちを追いかけている。

羊飼い

待って待って待って！・・あーあ。五匹も逃げちゃったじゃないの！
どうして柵をこえてくのを止めてくれなかったのよ！

男

ええ、そんなこと言われても

羊飼い

まったく、困るのよ。誰かが数えるたびに、羊が逃げていっちゃって。
誰が羊を数えたら眠れるなんて言い出したのかしら

男

その・・すみません

羊飼い

・・まあ逃げちゃったものは仕方ないわ。ちょっと手伝ってよ

男

なにを？

羊飼い

羊たちの毛を刈るの

男

バリカンかなんかで？

羊飼い

馬鹿ね。そんなの使ったら羊が怪我しちゃうじゃないの

男

じゃあどうやって

羊飼い

おだてるの

男

おだてる？

羊飼い

簡単よ。お手本をやるからみててね。いくわよ・・羊さん羊さん、なんて可愛らしいんでしょう！

メエメエと嬉しそうに返事をする数匹の羊たち。陽気な音楽が鳴り、羊たちは踊り出す。

男

羊が踊ってる・・

羊飼い

そんなことも知らないの？羊たちはおだてたら踊るのよ

男

へぇー。うまいもんだな

羊飼い

踊ったら暑くなるでしょ。そしたら自分たちから毛を脱いでくれるから

男

自分たちから？

羊飼い

ほらあなたもやってみて

男

えーっと、羊さん羊さん、なんて美しいんでしょう！

またメエメエと別の羊たちが返事をし踊り出す。

羊飼い

いいわ。その調子よ！

男

羊さん羊さん、なんて凛々しいんでしょう！

羊飼い

羊さん羊さん、なんて格好いいんでしょう！

男

丸くてつぶらな瞳！

羊飼い

もふもふの真っ白い毛並み！

男

鼻筋のとおった輪郭！

羊飼い

頭も賢くって！

男

しかも美味しい！

羊飼い

それ禁句

羊たちは褒めるたびに、一匹、また一匹と毛を脱いでいく。

羊飼い

いいわ！いいわ！その調子よ！さぁあなたも踊って！

男

え？は、はい！

羊飼い

毛を脱いだ羊が一匹！羊が二匹！

男

羊が三匹！羊が四匹！羊が五匹！

羊飼い

ヘェイ！羊が六匹！羊が七匹！

男

ヨゥ！羊が八匹！羊が九匹！

羊飼いと男は羊たちと盛り上がり、踊りながら柵をこえ遠くへ消えていく。
そこで、ふと我にかえる男。変わらずベッドのうえにいる。

男

羊が・・羊が・・あー違う。頼むから普通に柵をこえてくれ。
こんなこと考えるから、眠れないんだな・・

男の妄想とともに、今日も眠れない夜は更けていく。

END