野原。夕暮れ。風の音。男女が二人、やけに離れている。
おーい、麻衣子ちゃーん!
おーい、大介くーん!
遠いねー!
遠いねー!
あのさー! 遠距離恋愛って、こういうことではないと思うんだけどー!
えー?
遠距離恋愛ってー、
なにー?
麻衣子ちゃーん!
大介くーん!
遠いよねぇー!
遠いねー!
もうちょっと近づいていいー?
どうしてー?
そっち行くねー!
男、歩き出す。
いやー! 来ないでー!
どうしてー?
遠距離恋愛だからー!
思ってたのと違うんだけどー!
えー?
思ってたのと、
聞こえなーい!
麻衣子ちゃーん!
大介くーん!
何して遊ぶー?
最初はグー! じゃんけんぽーん!
っぽーん!
見えなーい!
チョキー!
なにー?
チョキー!
なにー?
チョキー! 麻衣子ちゃん、何ー?
あたし、B型ー!
何の話してんのー? これ、じゃんけん、何のじゃんけんだったのー?
大介くーん!
麻衣子ちゃーん!
大好きー!
俺も、大好きだよー!
え? 俺も、大介だよー?
いや、違うよー! いや、大介だけどー! 俺も大介って、世界観が怖いよー! 
あたし麻衣子ー!
知ってるー!
イエーイ!
あいつ何が楽しいんだよ。そっち行くねー!
え、やめて!
もう、どうしてー!
恥ずかしいからー!
どういうことー!
近づきすぎると、恥ずかしくて、顔が真っ赤になるからー!
心臓のドキドキが聞こえちゃって、汗の匂いがバレちゃうからー!
そんなの俺、気にしないよー!
あたしが気にするのー!
うるせえな。関係ねえよ。
男、歩き出す。
いや! いや! やめて! 来ないで! 止まって、お願い! 大介くん!
あいつ泣いてんのか?
あたしだって、手を繋いだり、抱き合ったり、キスしたり、したいよ!
でも、まだ、好きすぎて、好きすぎて怖いから! 今はまだ、この距離がいい!
(女と逆方向に歩き出す)
どこ行くのー! 大介くーん! 大介くーん!
反対側から行くわー!
えー?
そこで待ってろよ。
聞こえないよー!
俺も麻衣子ちゃんのこと大好きで、触れてみたいって思ってる。
そこまで離れなくていいよー!
旅してくるわ。ふさわしい男になるために。
地球を一周して、麻衣子ちゃんを背中から抱きしめてあげる。
そのくらいの月日が経ったら、二人の気持ちも落ち着いて、声を張り上げたりしない、
穏やかな恋愛ができるかもな。
何言ってるかわかんないよー!
いってくるわー!
大介くん! 待って! 待ってよ!
男、走り出す。
女、追いかける。
ちょっと! おい! 待てー!
よーし、頑張るぞー! 待ってろよ麻衣子ちゃーん!
あたし、パー出してたから! パー出してたからごめんってぇー!
二人の距離は、変わらないまま進んでいく。
幕。