- 野原。夕暮れ。風の音。男女が二人、やけに離れている。
- 男
- おーい、麻衣子ちゃーん!
- 女
- おーい、大介くーん!
- 男
- 遠いねー!
- 女
- 遠いねー!
- 男
- あのさー! 遠距離恋愛って、こういうことではないと思うんだけどー!
- 女
- えー?
- 男
- 遠距離恋愛ってー、
- 女
- なにー?
- 男
- 麻衣子ちゃーん!
- 女
- 大介くーん!
- 男
- 遠いよねぇー!
- 女
- 遠いねー!
- 男
- もうちょっと近づいていいー?
- 女
- どうしてー?
- 男
- そっち行くねー!
- 男、歩き出す。
- 女
- いやー! 来ないでー!
- 男
- どうしてー?
- 女
- 遠距離恋愛だからー!
- 男
- 思ってたのと違うんだけどー!
- 女
- えー?
- 男
- 思ってたのと、
- 女
- 聞こえなーい!
- 男
- 麻衣子ちゃーん!
- 女
- 大介くーん!
- 男
- 何して遊ぶー?
- 女
- 最初はグー! じゃんけんぽーん!
- 男
- っぽーん!
- 女
- 見えなーい!
- 男
- チョキー!
- 女
- なにー?
- 男
- チョキー!
- 女
- なにー?
- 男
- チョキー! 麻衣子ちゃん、何ー?
- 女
- あたし、B型ー!
- 男
- 何の話してんのー? これ、じゃんけん、何のじゃんけんだったのー?
- 女
- 大介くーん!
- 男
- 麻衣子ちゃーん!
- 女
- 大好きー!
- 男
- 俺も、大好きだよー!
- 女
- え? 俺も、大介だよー?
- 男
- いや、違うよー! いや、大介だけどー! 俺も大介って、世界観が怖いよー!
- 女
- あたし麻衣子ー!
- 男
- 知ってるー!
- 女
- イエーイ!
- 男
- あいつ何が楽しいんだよ。そっち行くねー!
- 女
- え、やめて!
- 男
- もう、どうしてー!
- 女
- 恥ずかしいからー!
- 男
- どういうことー!
- 女
- 近づきすぎると、恥ずかしくて、顔が真っ赤になるからー!
心臓のドキドキが聞こえちゃって、汗の匂いがバレちゃうからー!
- 男
- そんなの俺、気にしないよー!
- 女
- あたしが気にするのー!
- 男
- うるせえな。関係ねえよ。
- 男、歩き出す。
- 女
- いや! いや! やめて! 来ないで! 止まって、お願い! 大介くん!
- 男
- あいつ泣いてんのか?
- 女
- あたしだって、手を繋いだり、抱き合ったり、キスしたり、したいよ!
でも、まだ、好きすぎて、好きすぎて怖いから! 今はまだ、この距離がいい!
- 男
- (女と逆方向に歩き出す)
- 女
- どこ行くのー! 大介くーん! 大介くーん!
- 男
- 反対側から行くわー!
- 女
- えー?
- 男
- そこで待ってろよ。
- 女
- 聞こえないよー!
- 男
- 俺も麻衣子ちゃんのこと大好きで、触れてみたいって思ってる。
- 女
- そこまで離れなくていいよー!
- 男
- 旅してくるわ。ふさわしい男になるために。
地球を一周して、麻衣子ちゃんを背中から抱きしめてあげる。
そのくらいの月日が経ったら、二人の気持ちも落ち着いて、声を張り上げたりしない、
穏やかな恋愛ができるかもな。
- 女
- 何言ってるかわかんないよー!
- 男
- いってくるわー!
- 女
- 大介くん! 待って! 待ってよ!
- 男、走り出す。
女、追いかける。
- 女
- ちょっと! おい! 待てー!
- 男
- よーし、頑張るぞー! 待ってろよ麻衣子ちゃーん!
- 女
- あたし、パー出してたから! パー出してたからごめんってぇー!
- 二人の距離は、変わらないまま進んでいく。
- 幕。