(心の声)・・・いや、気のせいだ。俺の偽装は完璧なはずだ。
サラリーマンに化けていることも、ましてや、住所までバレるはずがない。
俺は一流のスパイなんだ。
しかし、押し入れの二重扉が開けられた形跡があるのはどうしてだ・・・・
フライパンで卵を焼く音。雀の鳴く声。
あなた
な、なに?
もうすぐ卵焼きできるからね
ああ、ありがとう
それと、昨日、書斎の押し入れ整理しといたから
(心の声)ヨシコだったのか・・。まて、二重扉の鍵は開いていたんだぞ・・・
たまには自分でやってよ、子供じゃないんだから
なあ
ん?
どこまで整理したんだ?
奥までよ
(心の声)なんだ、その意味深な返答は!奥までって、どこまでなんだ?
まさか・・・
塩こしょう、塩こしょう
好きだよ
何よ、急に
お前の顔見てたら、言いたくなって
私もあなたのこと大好きよ
(心の声)そうだ。嘘だらけの俺の生活の中で、ヨシコとの愛だけは本物なんだ
大好きだけど、隠し事はいけないなあ
え?
押し入れの中にあんなもの隠してるなんて
(心の声)しまった!ヨシコの右手はもうエプロンのポケットのなかだ!
対する俺は右手にマーガリンをすくったナイフ、左手に食パン。
俺のナイフが早いか、ヨシコの銃が早いか・・・。
ここからなにがでてくるでしょう?
や、やめてくれ!
あー、やっぱりあせってるー
俺をもてあそぶな!
おこっちゃって可愛いー
くそう!もう、好きにしろ!愛する女に殺されるなら本望だ!
じゃーん
ひい!
これ、高かったでしょう
と、時計・・・
また私に内緒で買い物したな。クッキー缶の中で見つけたよ
ははは、なんだよ・・
なんだよじゃないでしょ。罰としてディナーおごってよね
オッケー。黙ってて、ごめん
目玉焼き、できたよ。さっさと食べて、稼いで来てちょうだい!
おう!いただきます!
(心の声。目玉焼き食べながら)ふーーー!びっくりしたあ。
やっぱりヨシコはヨシコだ。疑ったりした俺が馬鹿だったよ。
きっと俺が鍵を閉め忘れたんだ。どうも最近、気が緩んでるな。
ヨシコとの生活に馴れ過ぎ・・うぐ、うぐぐぐ!
どうかしら、目玉焼きのお味は?
ぐふうう!
あーら、残しちゃだめじゃない、ダーリン
ヨ、ヨシコ・・・
ナスターシャと呼んで
ぐうう!
まだ朝だけど、約束のディナーに連れてってもらおうかしら。
私、いいとこ知ってるの、美味しいウオッカとピロシキのお店。
お代は暗号文の解読で結構よ
うぐぐうう!
(了)